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愛しい日々

あの時、僕は嬉しくて嬉しくて周囲なんて見えてなかったんだ。
それどころか目の前にいる君が纏う気配も表情も、気持ちも。何も見えてなかった。
僕は僕が感じている喜びばかりに夢中になって、君の身を削るような悲しくも激しい拒絶と、その意味を推し量ってあげられなかった。

懐かしいなぁ、とふと空を見上げる。

出会ったばかりの頃の僕らは、今思い出しても失笑するしかないくらい見事にすれ違ってばかりだった。
僕は君と出会った喜びに夢中で、君は僕と出会ってしまったことによって起こるだろう影響について思い悩んでいた。
僕らの間にどっかりと居座ったずれはいつまで経ってもなかなか改善されることがなくて、…多分、未だに認識にずれがあるままだろうと思う。
あの頃よりはマシとは言え、多分君は未だに僕と出会ったことを悔やんでいたりするんだろう。
僕と君とが出会ったことによって、様々なものが変化した。君が危惧していたことよりももっと大きなものが壊れ、それと同等の大きなものが生まれたのだから。

それでもほんの少しだけ近寄れたと思った時、僕は君の瞳のきらめきの意味を知って愕然とした。
僕にとって君の瞳のきらめきは、ひたすらとても奇麗に。純粋なもののように見えていて、だからこそ心惹かれ君との距離を縮めたいと躍起になったのだけど、そのきらめきの正体は瑞々しい生命力だとかふくよかな心の余裕だとかそういうものではなく、逆に人を傷つけることでしか身を守れない抜き身の刀のようなものだったのだ。
しかも、諸刃の。

君は僕を拒絶するその手で、自分すら傷つけていたのだ。
無意識に。

なんてことだ!
僕は何故か焦ってしまった。
僕がどうにかしてあげたいと勝手に思ったのだ。
そうすることで余計に君に負担をかけることなんて考えもせずに。ただ、君から離れればそれでいいなんてこと、欠片も思いつくこともできずに。

僕にはきっと想像力が足りなかったんだと思う。
君を思いやりたい気持ちばかりが先走って、本当の意味で君を思いやってあげられなかった。
だから君はいつも僕と会うたびしかめ面をしていたし、なかなか僕と目を合わせようともしてくれなかった。
僕が君の名を呼ぶたび、君は冷ややかな声で僕の名を吐き捨てた。

だけどやっと僕が君の心の一部を知ることができて、やっと君の目の前から離れることが最善策だと知った時、…君はどうして僕を引き止めてくれたのだろう。
あのまま君の言うまま甘えてしまいたかった。
だって僕はやっぱり君に惹かれてやまなかった。
君が好きだったんだ。

諸刃の剣でも、抜き身の刀でも、僕がどれだけ切りつけられてもいいと思ったんだ。
僕を切りつける刃が君をも傷つけるのなら、僕はその刀を抱きしめてあげようとすら思ったんだ。
そうすれば君に刃が当たることなんてない。
そうすれば僕は君のそばにいつまでもいられる。君とずっと一緒にいられる。
でも君は僕のその案も許してはくれなかった。
それどころか烈火のごとく怒り狂った。そんなのは絶対に許さないと厳しく言い切った。
それは、君なりの僕への思いやりだと気づいた。

気づいた時の喜びったらまたなかったのだけれど、でもだからこそ離れるしかなかった。
なのに君はそれすら止めた。

分からないのは多分、君もだと思う。…今なら。

懐かしいなぁ、と目を細める。

青空には薄い雲が途切れ途切れ揺らめき、太陽の光も夏ほど厳しいものではなくなってきた。
今頃君はどこで何をしているだろう。
僕と同じようにして空を見上げてくれているのだろうか。
君が見ている空は、僕が見ている空と同じように晴れているだろうか。それとも曇り?雨?
もしかしたら、君がいるところは夜かもしれないね。

僕は今、どこにいるんだろう。
分かったところで君に知らせるわけにはいかないし、分かったところで君との距離を思い知りたくもないし。
分かったところで、君とまた出会えるわけでもないし。
まぁ、いいか。

ここがどこであろうと、君がいないのなら同じだものね。

それでも僕は時々思い出す。
君と出会ったばかりの頃の、あの、周囲も何もかも見えなくなるほどの喜びを。
そして痛々しいほど冷たく張り詰めた君の、美しい瞳のきらめきを。

好きだよ。と僕は小さく小さく言葉にして空に放った。
君に直接伝えたことのない想いの欠片を、ひとつひとつ空に千切っては放っていればいつか。

いつか、
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