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始まりの歌を歌おう

青年は探していました。
己の周囲をこっくりと濃厚な闇に包まれても、それでも尚諦めませんでした。

青年は探していたのです。
どこまでもどこまでも永遠に続いていそうな真っ暗闇の最中、だけどきっとどこかにふわりと柔らかく、この手のひらの上に舞い降りてくれるだろう光の粒を。
それがどんなに幼く脆く、儚い光だったとしても。
周囲取り巻く重い暗闇に、すぐに飲み込まれてしまいそうなくらい病弱なものであったとしても。

何ものにも代え難い、尊く清らかな光の粒を、青年は探し続けているのです。

思い切り力を込めることに慣れたこの手で、優しくそっと包むことに不慣れなこの手で。
一生かけて、命も誇りもかけて守り続けるべき光を。

細く細く差し込む一条の光を。

青年は強くなるためだけに鍛え上げた両腕で、強いものと戦うためだけに作り上げた肉体と精神で、儚く脆い光を守りたいと心の奥底から願ったのです。

青年はその小さな小さな、今にも消えてしまいそうな光の粒を、肉刺だらけの手のひらでそっと支えました。
包み込むにはまだ力の加減が分からずに、今にもこみ上げる愛しさに強く胸に抱きしめてしまいそうになるのを必死で耐え。
尊い光を見つめ、恐る恐るそっと、そっと、口付けました。
それは誓いのキスでした。
ふわり、それに応えるように光が僅かに揺れました。
それは今まで触れた何よりずっと美しくあたたかなものに感じました。

青年は不意に泣きたくなりました。
子供の頃よく一緒に遊んだ友人が不慮の事故で亡くなった時も、乗馬の練習中、落馬をして怪我をした時も、父上様に酷く叱られた時も、家族と離れる時も悲しくて悔しくて寂しくて泣きそうになりましたが、いつもいつもぐっと堪えておりました。
しかし、こんな時青年は、泣きそうになったというより、泣きたくなったのです。
悲しくも悔しくも寂しくもありませんでした。
青年は、どう表現したらいいのか分からないほどの溢れ返る歓喜に泣きたくなったのです。
大声を上げて吼え泣き咽びたかったのですが、幼い頃から耐える癖をつけてきてしまった青年は上手に泣けませんでした。
青年は泣きたくて泣きたくて堪りませんでしたが、泣けずに唇を噛みました。
ぐ、と強く強く噛み締めて息を止め、青年は耐え切れない感情の嵐に沈み込みます。

…あぁ、

しばらく耐え、青年はやっとの思いで小さく息をつきました。
そしてその光を手のひらに、その場に膝ま付き、誓いの言葉を口にしました。

そこでようやく青年は、たった一粒だけ涙を落とすことができました。
青年はその己の涙の味と、噛み締めた唇から滲んだ己の血の味を一生記憶したまま生きていこうと決めました。
誇り高く、前を向いて真っ直ぐに。




青年は探していました。
どんなことがあっても、何が起こっても、絶対に諦めきれない光の粒を。
自分のこの手。この身。この心。全てでもって守り抜くべき者を。
出会えたその瞬間から始まる自分とその光が紡ぐ物語を、今こそ始めんがためだけに。
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