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無限回廊の真っ只中で

すぅわり、風が吹いた。
それは突風というよりそよ風に近い、だけど奇妙な緊張感を孕んだ空気の流れだった。

忘れてないよ。
ちゃんと覚えているから。

そう口にしそうになって、誰に対してそんな言葉を口走ろうとしたのか自分でも分からず驚き、立ち止まって振り返ってしまった。
そこには先刻すれ違った見知らぬ男。
彼もまた、僕らの間に吹いた奇妙なそよ風に戸惑ったのか、立ち止まり、肩越しこちらを振り返っていた。
けれどすぐに視線を元に戻し歩いて行ってしまう。
…気のせいだろうか。
僕も思い直して歩き出す。

何を覚えているというのだ。
何を忘れていないのだ。
誰にそれを伝えようとしたのだ、僕は。

今。

すぅわり、風が吹いた。
それは突風というよりそよ風に近い、だけど奇妙な懐かしさを孕んだ空気の流れだった。

やっとまた会えたね。
良かった、とても会いたかった。

そう口にしそうになって、誰に対してそんな言葉を口走ろうとしたのかやっぱり自分でも分からず戸惑い、また立ち止まって振り返る。
そこには先刻僕と一瞬だけ見詰め合った見知らぬ男。
彼もまた、僕らの間に気まぐれに吹き抜ける奇妙なそよ風に僅かに眉間に皴を寄せ不思議がる様子。
けれど先刻よりほんの少し長く見詰め合った後、また背を向け行ってしまった。
…気のせい、なのだろうか。
僕は首を傾げ傾げ歩き出す。

また、とはどういうことだ。
何故そんなことを思うのか。
誰にそんなに会いたがっていたのだ、僕は。

今。

すぅわり、一陣の風が吹く。
初めて見る情景、初めて体験する状況、初めて知る世界が、酷く懐かしいのは何故だ。
何故こんなにも全てがいとおしいのだ。
なのに何故こんなにも悲しいのだ。虚しいのだ。悔しいのだ。
恋しいのだ。
何故。

誰。あなたは誰だ。
何故僕は会ったこともない、頼りなく揺らめく曖昧な影を知っているのだ。その手のぬくもりや、纏う気配や、瞳の虹彩や、匂いを知っているのだ。

その影が誰なのか分からないのに、僕はただ無性に。無性に。
抑えきれず、会いたかった、と小さく呟いてしまった。
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