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double suicide 2

お前は本当に余計なことばかりをする。
いちいち首を突っ込んで、不必要な荷物を請け負って、知らなくてもいいことまで知って、そのたび何度も傷ついて。
前ばっかり見て、人の心配ばっかりして。たまには自分の足元も確認しないと転ぶだろうに。
怪我をすればお前だって痛いだろうに。
馬鹿だ。これ以上ないくらい、今まで見てきた中で一番の愚か者だ。

どこにも行けずに立ち尽くす俺はそれでも、平気なふりして自分を棚に上げ、心の奥底から散々彼を罵る。
彼は俺の罵声にこれまたいちいち反応を示し、毎度全力で歯向かってくるからますますいけない。

「アンタには分からないんだよ」

「あぁ、分かりたくもないね。くだらない」

心底呆れ返って肩を竦めた俺に、彼は不意ににたりと笑った。
憎たらしいほど楽しげな、満ち足りた笑顔でもって、まるで俺の全部を見透かすように両目を細めて笑った。
その勝気な笑顔がゆっくりと瞬きを繰り返すのを、俺はただ呆然と見つめるしかできなかった。
だって、俺がいるのは未だ「過去」だ。
俺は俺の意思とは全く関係のない周囲の働きかけによって頓挫してしまった「過去」に縛られ、どこにも行けない。
一緒には、行けない。
お前と共に「現在」を走れない。
まして「未来」などと。
俺には途方もなく遠すぎて、透かし見ることすらできやしない。

ただ傍にあり続ければいつか分かり合えるなんて奇麗事過ぎて笑える。
俺がお前をそこから連れ出してやるだとか、大口叩くのもいい加減にしろ。現実を直視しろ。世界を知れ。
口ではそう言いつつどこかで俺は、もうこれ以上何も知らず何も見ずそのままでいてくれたらと思ってしまったりもするのだ。
自分では気づいていないのか。それほどまでにお前はすでにズタボロなんだよ。
それはもう、無残なほどに。笑いながら立っているのが不思議なくらいに。
有無を言わせず周囲全てを巻き込みながら、気が遠くなるほど連綿と続くこの頑強な鎖を引き千切るに、お前の手はあまりに繊細過ぎた。
まして、俺の自ら汚したずたずたの手でなんて不可能だ。
そしてそれを俺は、もう嫌というほど知っていた。
それだけだ。

「無理なんだよ」

ぽつり、零した俺に、彼はやはりにたりと笑う。
信じろよ。なんてあまりにあんまりな言葉を俺に紡いで見せる。
なんてひどい。あまりにむごい。
俺は衝動のまま彼の頬を両手のひらで捕まえた。
力の加減もできず掴んだ頬に指が食い込む。指の隙間、彼の柔らかな色をした髪がさわりと歪んだ。
痛いだろうに、彼は抗わず不思議そうにこちらを見つめてくる。
間近にきた彼の両目はいつだってどこまでも透き通った秋の空の色をしているから、結局目をそらし逃れてしまうのは俺の方だ。

じん、と眼球の奥が痺れるように熱を持った。
慌てて歯を食いしばる。

今。俺が、行くな。と言ったところで多分、彼は行く。
今。俺が、行かないでくれ。と言ったところで変わらないだろう。

ならせめて、最後の悪足掻きをしようじゃないか。

それでも死ぬ時は一緒だなんて言えない俺は、本願をオブラートにくるんで彼に渡す。
眼前、彼の大きく見開かれた両目はやはり、どこまでも透き通って俺の顔をまじまじと映すから。俺の、無表情を無理やり貼り付けた苦しげな顔を正しく映してしまったりするから。
俺はそれ以上の言葉を続けることもできずに歯を食いしばり、きつく目を閉じて彼の額に額を押し付けることしかできなかった。
額と額に挟まれた互いの髪がしゃらしゃらと音を立てて擦れる。
じんわりと滲むような体温と、彼の匂い。
息を呑むような、だけど次の瞬間、ふわり、緊張が解け消えていく彼の気配。

うわ、やばい泣きそう。
なんで今なんだちくしょう。なんでこんな間際に。

口惜しさと悔しさで息ができない。
ぎりりときつく奥歯を噛み合わせ、掴んだ頬をそっと。できるだけそっと離した。
言葉にできない感情が渦を巻いて胸の奥深くから溢れ、それを零してしまわぬよう唇ときっちりと閉じる。出口をなくした濁流は激しく蠢き、そのせいで熱を持って頭蓋骨の中を暴れ狂った。

「…もういいから。行けよ」

なんとか押さえ込みやっとそう言えたのは、もう彼が俺の前から走り出した後だった。
多分、届いていないだろう。

お前は本当に余計なことばかりをする。
そのせいで俺まで余計なことをしてしまったじゃないか。慈悲とか同情とか、そんなものとは程遠い、だけど自分でも何なのかよく分からない感情そのままに、本願を。オブラートに包んで。
どちらにせよ結果は変わらないというのに。
信じろよ。だなんて馬鹿馬鹿しい。
今更だろうに。

俺は先刻彼の小指に絡ませた感触残る己の小指を一瞥した後、改めて無表情を顔面に貼り付け空を仰ぐ。
そこにはもう、とっくに秋を通り冬を越え、春を目前にした鮮やかな色が広がっていた。
だから、せめてさよならは言わずにおいた。
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