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アズライト

これほど、今すぐ顔が見たいと思ったことはない。

不意に、その覆い隠す鋼鉄の格子の向こう。影に隠れた深い藍色の両目に、僕はちゃんと僕として映っているのか心配になった。

恐る恐る手を伸ばす。
普段なら不機嫌そうな声色で僕の行動の真意を問うてくる。もしくは会話自体を面倒くさがって適当に諌め逃げる彼が、黙ったまま大人しくしてくれているのをいいことに、僕は手を伸ばす。
チリ、と硬い金属が触れ合う音がして、僕ははっとした。
今はどんなに願っても駄目なんだ。今は。
僕は彼にも見えないそのまま、内側でくしゃりと顔を歪めた。

「…どうした。大丈夫か」

そんな低い声が僕の伸ばした手の先から響いて、そのぶっきらぼうに僕を気遣う雰囲気とか、そういうの。僕は知らないから。そんな彼知らないから。
僕が顔を歪めたのなんて彼からも見えてないはずなのにと驚いて震えた。
チリリ、硬い金属が僕の動揺を音にした。

こんな時ほど、今すぐ顔が見たいと思うことなんてない。

彼は一体どんな顔をして僕を見ているのだろう。
その藍色の瞳に映る僕は、本当に正しく僕なのだろうか。
彼はちゃんと僕を、目の前にいる僕だけをきちんと認識してくれているのだろうか。
せめて今くらいは。僕だけを。

「好き」の反対は「嫌い」ではない。と誰かが言った。
「好き」の反対は「無関心」だと。
好きだと思う強い気持ちと嫌いだと思う強い気持ちは、相手に注ぐ熱量だけで見れば等しい。
愛情、憎悪。それら感情は表裏一体。紙一重。あまりに肉薄した場所にある。
どんな形であれ、対象を強く、激しく想うことと対になるのは、興味も持たずその存在を簡単に忘れてしまうことだ。
どうでもいい相手のことなんてすぐ忘れてしまうだろう?好きだとも嫌いだとも思わない。そこまで熱量を使う必要なんて見い出せない。

ならば。
ならば僕はきっと彼のことが好きなのだろうと思う。
我ながら短絡的な思考だとも思わなくもないけれど、彼のことをどうでもいいと思ったりしないし、彼の存在を忘れたことなんて、彼と出会ってから今まで一度もない。
願わくば彼にとっての僕もまた、そういう存在でいられたらと思う。
好きとか嫌いとか、そんなの考えたこともないし、今考えてもいまいちピンとこないけれど。
友達とか恋人とか家族とか仲間とか、人と人の繋がりを言い表わす言葉はそれなりに沢山あるけど、僕と彼の関係はそのどれにも属していない気がする。
どれも違う。ピンとこない。
だけど、だけど僕らは。

「…お前、今どんな顔してる」

ぽつりと彼が呟いた言葉に僕は、それは僕の台詞だと何故か地団駄を踏んで喚きそうになった。
その覆い隠す鋼鉄の格子の向こう。影に隠れた深い藍色の両目に、どうしたら僕はちゃんと僕として映っているか否かを確認して安心することができるのだろう。
その、冴え冴えと沈み込むような深い、深い藍色に。どうやったら僕は確かな僕を見つけることができるのだろう。

こんなに、こんなに今、今すぐ顔を見たいと思うことなんて、ない。
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