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綿飴みたい

この僕に真っ向勝負なんて望まないで。だけど大人独特の難解な回りくどいこともしないで。と僕は我侭を思い、それを口走るには自分があまりに卑怯な気がして苦笑した。
そのまま俯いてしまいそうになって、でもそんなことをしたらせっかくの奇麗な青空が見えなくなってしまうことに気づいてぐっと耐える。
喉の奥に何か小さな硬い粒が沢山詰まって痛い気がしたけれど、それを飲み込もうと何度唾液を落としても敵わなかった。
強情なのは、きっと僕自身だ。

ふわふわと風に乗ってあてどなく移動する雲の塊は、もしかしたら単に僕にあてどなく見えているだけで、本当は目的地がはっきり決まっているのかもしれない。
いとも簡単に形を変えながら、それでも真っ直ぐ、自分が行くべきところへ向かっているのかもしれない。
雲を作ったのは誰だろう。雲に行き場を与えたのは誰だろう。
本当に誰かが雲を作り、行くべき方向を教えてあげたのなら、意地悪しないで僕にもこっそり教えてくれたらいいのに。

「…あれは兎さん、あれはロリポップ、あれは苺。あれはまん丸だからビスケット」

僕は粒ごと苦笑を喉の奥に無理やり押し込み、それでもやっぱり引っかかったままなのも無視して空に浮かぶ雲の形から身近な色々を見出して遊ぶ。
もたれかかった背中と背中、空には君の好きなものが沢山あるんだね。とあなたが静かに笑ったのが伝わってきた。
そうだよ。空には僕の好きなものが沢山あるんだ。僕はふるふると覚束ない頬の筋肉を必死で笑みの形に留めようと、口の中でこっそり舌先を噛んだ。

「あれは砂糖漬けのサクランボ、あれは猫さん、あれはひまわり、あれは音符、あれはボール、あれは、…あれは、君」

僕の声はだんだん震えていくけれど、あなたはそれに気づいておいて気づかぬふり。僕の背中に背中をぴったりくっつけたまま、僕?僕が空にいるの?と静かに笑い続ける。
そうだよ。空には僕の好きなものが沢山あるんだもの。あなたがいないと可笑しいじゃない。
僕は舌先だけじゃ足りないんだ、と頬の内側も少し強めに噛んでみるけど、そんな微かな痛みじゃ足りなかった。
全然、足りなかった。

風に流されながら、雲の形はどんどん変わった。
さっき僕があなただと指差した雲も、ゆるゆると形を崩して流れていった。
変わらないものなんて何もないけど、じゃあどうして変わらないでと願う人と変わりたいと願う人がいるんだろうと不思議に思う。
両方の願いを平等に叶えることって難しい。
僕みたいに、変わりたいと思うことも、変わらないでと思うことも、両方ある人はどうしたらいいんだろう。
どっちか選ばなくちゃいけないんだろうか。

「ねぇねぇ」

僕はわざと拙い声であなたをせがむ。
預けっぱなしの背中で背中をぐぃぐぃ押して、あなたのぬくもりごと全部強請る。
この僕に全て素直に曝け出せなんて言わないで。だけど賢く受け流す術を身につけろとも言わないで。
僕は僕の欲しいものを、僕のやり方でしか欲しがれないんだ。
あなたはそんな僕の酷い我侭も全部ひっくるめて理解して、だけどくつくつ笑うだけで宥めてしまう。
ぐぅぐぅ僕の喉が鳴る。
猫みたいに気持ちよくて鳴るならいいけど、生憎人間の僕の喉が鳴るのは、飲み込みきれない色々が喉の奥に詰まって困っている時だ。
僕はどうしたってぐぅぐぅ鳴る喉に苦笑した。

『あ、君がいる』

ふふふ、背中越し、あなたが笑った。
僕がこんなに困っているのに、あなたは全然関係ないみたいに実に楽しそうに笑う。
僕は丸めていた背筋をほんの少し伸ばして、背後のあなたをちょっと振り返った。
あなたの後頭部からほんの僅か見える頬はやっぱりいつもの笑みが滲んでいて、そのしなやかで温度の低い指先が、さっきの僕を真似るように真っ直ぐ空を指差していた。

『ホラ、あの雲。君そっくり』

「…どこが」

『ふわふわ柔らかくて、儚くて、可愛いところ。ホラ、髪型もそれっぽく見えない?』

「見えない」

僕は唇を尖らせて雲から視線を逸らした。
くつくつ、くつくつ、あなたは静かに笑った。

あなたの笑い声はいつも綿飴みたいにつかみ所がなくて甘ったるいと思う。
雲より何より、遠いと思う。
この僕に現実ばかりを押し付けないで。だけど適当に有耶無耶にもしないで。と僕はまた我侭を思い、だけどやっぱりそれを口走るには自分はあまりに、あんまりにも卑怯だと思って苦笑した。
まだ、俯いてしまうわけにはいかなかった。
だって僕は、あなたが僕に似ていると笑う雲が形を崩してしまう前に、その隣にどうしてもあなたに似た雲をまた見つけなければならなかったから。

何も選べない卑怯な僕は、何も選ぼうとしない卑怯なあなたと背中を預けあったまま。
向かい合える日が来るのか来ないのか、未だに分からないでいる。
空にたゆたう雲の形に、本当はとっても欲しい何かを見出して遊びながら。
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