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君は君の存在そのものが夢みたいだと思う。
僕を見つめる瞳すら意思もない空っぽなビー球みたいだし、不機嫌そうなその声も録音してあるのをタイミングを見計らって流してるだけみたいに聞こえる。
うだる暑さで僕らの脳みそをドロドロに溶かしてしまう夏はもう終わってくれるのでしょうか。
耳の穴から流れ出した脳みそだったものは、もうとっくに排水溝から下水に流れ込んでしまったのでしょうか。
僕が今こうしてここにいることも、君が今こうして僕の目の前で夢みたいに揺らいでいることも、全部夏の暑さのせいにしてしまっていいのでしょうか。
全部ただの陽炎だと思っていいのでしょうか。
僕は何なら諦めていいのか、何に固執しなければならないのか、何なら捨てていいのか、何を大事にすればいいのか分からないまま、今にも脆く崩れ落ちてしまいそうな儚い君をぼんやり眺めた。
「どうしてあんなこと言ったの。あれは僕の台詞だったのに」
君はわざとらしく怒ったような声で僕に問い詰めた。
だけど僕は、その台詞数日前の君にそっくりそのまま返すよ、と声に出さずに思っただけで、力ごと溶け出した脳みそフル回転で別の答えを探す。
「だって本当のことだもの。僕が逃げたんだ」
「嘘だね」
君は僕がようやく考え付いた適当な言葉を即座に否定して鼻で笑った。
嘘の何が悪いんだろう。
僕は可笑しくて笑ってしまう。
「何が可笑しいの」
君はやっぱりあらかじめ録音しておいたやつを再生するような声色で不機嫌を表現しようとした。
真実味が足りないのは僕らの間で投げ合う「嘘」の方じゃない、君の存在そのものにそもそも真実味が足りないのだ。
ならばそんな君と対等にこうして話をしている僕だってきっと、君からすれば真実味の足りない不可思議な存在なのだろうと思う。
それならそれでいいじゃない、と投げ出すことを君は許してくれないけれど。
実は僕より君の方が嘘に厳しい。
嘘に厳しいということは、イコール、真実に縋り切望しているということなんじゃないだろうか。
僕は思ってまた笑う。
「…早く夏が終わってくれないかな。別に夏も嫌いじゃないけど、こうも暑いと駄目になっちゃう」
食べ物も、空気も、人も、僕らも。