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お迎えは夕暮れに。

ごめんね迷惑かけて。
ごめんね心配かけて。
ごめんねごめんね、
ごめんばっかりしか言えなくて、ごめんね。

彼は繰り返す。何度も何度も何度も何度も。
最初は謝りたい気持ちも分からんでもないしな、と思って黙って聞いていたけれど、いい加減苛々してくるほどに、繰り返す。

彼を探して探して走り回って、やっと彼の姿を見つけた俺は、探してる最中あれほど叫びたかった彼の名前を怒鳴る気力も失せて、へなへなその場にへたり込んだ。
彼は俺に気づいて慌てて走り寄り、何故か俺と同じくらい疲弊した雰囲気で俺の目の前にへたり込んだ。
そして、ひたすらうなだれごめんねを繰り返した。

謝ってほしくてこんなにへとへとになるまで探したんじゃない。
謝ってほしくてちょっと泣きそうになるほど心配したんじゃない。
だけどそう言ったところできっと、彼はまたごめんねと頭を下げるのだ。
彼は謝って許してもらおうなんて甘ったれた期待は持っていない。
卑屈になっているのとも違う。
ただ、悪いことしたら謝らないと。悪いと思った分だけ謝らないと。
きっとそんな風に思って今まで生きてきたのだろう。

人に迷惑をかけることを酷く厭い、心配をかけてしまうことを酷く恐れる節がある彼。
そのことを知った俺が、だからと言ってはいそうですか、なんて簡単に放っておけるわけがないじゃないか。
彼は放っておいて、なんて言わない。
だけど、助けてとも言わない。
ただ彼らしい、彼にしか通用しないような不思議な強さでもって、彼は自分がいるべき場所にいる。
さっき俺が見つけた時みたいに、すぅと音もなくそこにひとりで立っている。
彼はふわふわと柔らかでどこか儚い雰囲気なのに、ひとりで立つ強さをとっくに持って生きている。
俺が探さなくとも、心配しなくとも、彼はひとり生きていけるのだ。
これはこれで全然大丈夫だったりするのだ。
俺はその事実が時々無性にもどかしく、凄く寂しいと思う。

頼むからごめんね抜きで話をしてくれ。
放っておいたら日暮れても延々続きそうな謝罪の言葉に辟易した俺が、無様にへたり込んだまま溜め息をつく。
彼を探している最中どんどん募っていった胸の中詰まった何かを、ありったけの空気と一緒に吐き出して地面に捨てる。
うん、ごめ、
言いかけた彼は困ったような苦笑いを零して言葉を飲み込んだ。
俺が横目に睨んだのが分かったのだろう。
うん、でももう一回だけ言わせて。
彼は苦笑いのまま頬を指先で掻いた。

ごめんね、でも、ありがとう。
どうしたらいいのか、何って言えばいいのか分からなくて、他に言葉が思いつかないよ。
ありがとね、本当は凄く凄く、嬉しい。
探してくれて、迎えにきてくれてありがとう。

彼は苦笑いのままこちらに頭を下げた。
ぺらりと折れ曲がるようなその身体全部がこちらを向いて、俺のためだけにその言葉を選ぶ。
顔は見えない。だけど、彼が微かに微笑んでいるのが分かった。
じわり、胸の奥が何故か揺らいだのが分かって、内心俺は動揺した。

…どうでもいいけど。

俺はもごもご、口の中で言葉を捜す。
どうでもいいけど、…腹減った。帰るぞ。飯奢れ。
俺はごめんねを繰り返すことしかできない彼よりもっとぞんざいでどうにもならない荒い言葉をようやっと口にした。
うん。帰ろっか。
彼はそれでもほっとしたような、どこか嬉しそうな柔らかな笑みを零して頷いた。

謝ってほしくてその手を引くんじゃない。
謝ってほしくて心配するんじゃない。
一緒に帰る場所さえあれば、俺はそれでいいんだ、本当は。
何度だって探し出してやっから。何度だって心配してやっから。
慣れろ。悪いと思うな。あぁまたきてくれたんだ、くらいにしとけ。でも時々ありがとうくらい言え。言って、笑えばいいじゃないか。
俺は本当にそれだけでいいんだから。それだけで報われるんだから。
思えど、口から言葉になって出てきてくれない。
なんだか悔しくて、頬の内側を少し強めに噛んだ。

夕日が奇麗なんだ、ここ。
彼はふと、今思い出したかのように呟いた。
それに応えるために顔をあげたけれど、夕暮れはもうとっくに夜に塗り潰されそうになっていて、彼がひとり見ていた奇麗な夕日なんて見られなかった。
今度また彼を探す時は、もう少し早く見つけようと思う。
そして彼の言う奇麗な夕日を、俺にも見せてもらおう。

帰ろっか。
彼はもう一度俺にそう言った。
おぅ。帰るぞ。
俺はその時になってようやく、まだ俺も彼もその場にへたり込んだままだったことを思い出した。
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