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秘密のメッセージ

彼から届いた秘密のメッセージは、万が一他の人間に見られても内容がバレてしまわないように、と慎重に慎重をきしたのか、僕にはあまりに難解な暗号だった。
解読するのにどれほど時間がかかっただろう。
未だに解読しきれない部分だって正直あるのだけれど。
ようやく解読できた一部(解読、というよりもほぼ勘だけれど)、そこに隠された文章にあった日時の指定は、その時とっくに過ぎていた。
あまりの取っ掛かりのなさに途方に暮れて、だけど何となく身に着けて過ごしていたのだ。
部分の解読だって、何気なしに眺める癖がついてしまっていたお陰みたいなもの。
はっきり言って偶然だ。
僕は未だに完全に解読しきれない暗号文を握り締めたまま、真っ青になって飛び出した。
僕を呼び止める声も何もかも全部、無視して。

正直そんな余裕なんて欠片もなかった。
内容以前に、彼からだ、と分かった瞬間からとっくに余裕なんてなかったのだ。
彼からだ。そう気づいた瞬間、後から後から、日付やら場所やらの解読ができた。
まるで空から頭上に降ってきたように。
そう。情けないことに僕は、誰からきたメッセージなのかすらなかなか気づかなかったのだ。
なんとなく予感はしていて、だから手放せなかった。
彼からだ。そう気づいた瞬間、信じられない、と思ったと同時にどこかで、やっぱり、と思った自分がいたのも正直なところ。

ゼェゼェ、息を切らして走る。
とっくに過ぎた約束の時間。だけど、彼が僕を呼んでくれた場所は消えてなくなるわけもなく、当然そこにある。

彼が僕を呼んでくれた。
僕だけを。
それが例え何かの罠だったとしても、僕にとってその事実だけで十分、その場所に走る理由になった。
彼が僕を呼んでくれた。
僕に会いに来いと言ってくれた。
ひとりで来いと。ふたりだけで会おうと。
他でもない、僕だけに。
そこにどんな意図があろうとも、僕は彼に会いに行かなくちゃいけない、と思った。
行かなくちゃいけない行かなくちゃいけない。
とっくに過ぎた約束の期日。当然彼はもういないだろう。行っても会えないだろう。
だけど僕は、それでもその場所に行かなくちゃいけない。

ざざざ、ざわざわ、
去年の秋に枝から舞い落ち、地の上からからに乾いて積みあがった枯れ葉が足の下で荒い音を立てた。
ゼェゼェ、息を切らして周囲を見回す。

…当然、誰の気配もしないのだけれど。

「…  、」

ぽつり、呼ぶ。
ざわざわ、風に揺れる木々だけが返事のように身を震わせ音を立てた。

このメッセージを僕に送ってくれた彼は一体、何を思って暗号を作ったのだろう。
僕に何を伝えようと、僕を呼んだのだろう。
どんな顔をして?どんな気持ちで?
約束の期日、彼はどのくらいここで僕を待ったのだろう。
たったひとりで。何を想って?
イライラしてた?それとも、すぐに帰ってしまった?
僕の顔を何度、思い出してくれただろう。

未だ若葉を固い蕾の中に抱いたままの、裸の木々が覆う森の中。
僕はここでひとり、約束の日に僕が来ることを欠片も疑わずに僕を待ったのだろう彼を想う。
当然だ。解読できてたらその日その時間に、僕は絶対にここに来ていた。
彼に会いに。たったそれだけのために。
もし僕が、指定された期日に間に合っていたならどうなっていただろう。
彼とふたり、正面から向かい合って。一体どんな話をしたのだろう。

手のひら、加減も忘れて力いっぱい握り締めていたせいでぐしゃぐしゃになってしまった、彼からの暗号文を開く。
皺くちゃなそれを申し訳程度に伸ばしながら、未だ解読できない部分を見おろす。
ここには一体、何が書かれているんだろう。
彼から僕へのメッセージ。

僕はいつも彼と対峙しても、うまく喋れない。
本音をぶつけ合うには僕らはまだまだ遠いし、僕らの足場はさほど強固なものでもない。…と、どこかで思っている。
だけど僕は彼に会って、話をしたい。
ふたりだけで、沢山沢山話をしたい。
こうしてメッセージをくれたということは、内容は分からないけれど、彼にも少なからず同じ想いがあった、ということだ。
そして彼はきっと、今までの中で一番勇気を振り絞ってくれたんだと思う。
その事実だけでも少し、嬉しかった。
そして、間に合わずに彼を待たせ、彼をひとり帰らせてしまった自分が、彼の勇気を台無しにした自分が、悔しくて悔しくてならなかった。

「…ごめんなさい」

彼がいただろう場所に、頭を下げる。
だけど僕のこの、彼への気持ちは彼に届いていない。
会って、ちゃんと謝りたい。
そして、今度はもっと早く暗号解くからまた手紙ちょうだい、と強請りたい。
彼の話をいっぱい聞きたいし、僕の話もいっぱい聞いて欲しい。
周囲に降り積もり、風に流されがさがさ音を立てる枯れ葉よりももっともっと沢山。

「  、ごめんね」

もう一度、誰も居ないそこに、心を込めて頭を下げた。

「…会いたい」

ぽつり、零した本音はまだ、彼に届いていない。
まだ完全には解読しきれていない暗号文を、ぎゅ、もう一度握り締めた。
解読できないなら、彼に直接聞けばいい。

「…会いに行くよ、今度は僕が」

ざざざ、がさがさ、枯れ葉が風に舞う。
僕は若葉芽吹く前の裸の木々の枝の合間、広がる白く青い空を見上げた。
春はきっと、僕らの間近に迫っている。
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