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水浸しの子守歌

水浸しの床の上。
裸足の足の裏に、冷たくも、温かくもないぬるい水が滑る。
指と指の隙間を濡らし、だけど沁み込み這い上がってなんかくるはずもない、それだけでしかない。
怖くない。
怖いものなんて何一つ。
そう、口に出して自分に言い聞かせる。

シャワーコックを捻る前。
自分より先にここを使ったのだろう微かな湿度と水浸しの床。
ぴしゃり、水音が鼓膜の内側に篭った。

“蒼い蒼い夜でした。”

歌声が蘇る。

“蒼い蒼い夜でした。ゆぅらりゆらゆら赤い月。きらきら雪原銀世界。
どこにも行けない闇の子は。いついつどこで眠るだろう。
どこにも生けない闇の子は。いついつどこに眠るだろう。
蒼い蒼い夜の内?ゆらゆら赤い月の上?きらきら積もった雪の中?
ふぅらりふらふら揺らいでは、寝床を探す闇の申し子。
ぼぅやはお眠り。光の子。眠る居場所はここにある。
悲しい夢が覆う前。怖い夢が襲う前。ぼぅやはお眠り。今の間に。
どこにも往けない闇の子が、ぼぅやに寄り添い眠るまで。
蒼い蒼い夜でした。ゆぅらりゆらゆら赤い月。きらきら雪原銀世界。
どこにも行けない闇の子は。いついつどこで眠るだろう。
どこにも生けない闇の子は。いついつどこに眠りだろう。
すやすや眠るぼぅやの隣。闇は光のすぐそばに。眠る居場所は同じ場所。”

…蒼い蒼い夜でした。ゆぅらりゆらゆら赤い月。きらきら雪原銀世界。

思いの他すらすらと脳裏過ぎるそれを口に出せば、水浸しの床の上、それは微かに跳ねた。
ぴしゃり、水音。

“ぼぅやが眠って目覚めたら。蒼い夜は明けるでしょう。赤い月は沈むでしょう。冷たい雪も溶け消えて、淡い花が咲くでしょう。
それまでお眠り。光の子。寄り添う闇の子抱きしめて。
お眠りぼぅや。いい子だね。
春待ち桜と菜の花がぼぅやの夢に咲くでしょう。”

どこで覚えたかも忘れそうな、淡い記憶そのままに。
濡れた床の上、水浸しの子守歌を呟く。
怖くない。
怖いものなんて何一つ。
今度は口に出してまで自分に言い聞かせることができなかった。

…どこにもいけない闇の子は、いついつどこで眠るだろう。
…どこにもいけない闇の子は。いついつどこに眠るだろう。

ぴしゃり、
踏みしめた素足の裏。
水浸しの子守歌。
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