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朝に君を奪われる。

「…都合がいいんだな」
僅か苦く笑った相手に対して、
「そうだよ。知らなかった?」
どこまでも強気に笑い返すことに。
無意識、できるだけ相手より自分が優位に立とうとすることに、縋っているつもりはないのだけれど。

大したことはないと思ってる。
それは言うほど問題ではないのだろうと。
もっと時間と脳みそを使わないといけないことは、他に沢山あると思ってる。
だから、今はさほど深刻なものとして考える必要なんてないんだと。
…そう、自分に言い聞かせていることにも気づかないふりをする。

冬の夜風はどこまでも遠く透き通って、痛いほど冷たい。
全部凍らせて地面に釘付けにするみたいに、何もないように“見せかける”。
塗り潰したような、こってりと濃い漆黒の中。
星すら伴わずに独り怖いくらいくっきりと浮かび上がる月だって、もしかしたらまやかしなんじゃないかって、思ってしまうくらい。
…そのくらい、奇麗、ってだけなんだろうけど。

君と毛布にくるまればきっと、全部忘れて安心して眠れるのだろうと思う。
だけど眠ってしまえばいつか朝がきてしまうことを知っている僕は、素直にそのあたたかいだけの毛布にくるまれることを躊躇してしまう。
朝になれば、君は僕だけのものではなくなることを、知っている僕は。

どうか朝がきませんように。
そんな馬鹿げた願いを空の中央から無情にも傾き始めた月に願ったって、叶わないことも知っているけれど。

朝が君を僕から奪う。
いつもいつも、非情なまでに、容赦なく。

朝なんてこなきゃいいのに。
眠ったら朝がきてしまうのなら、眠らなきゃいいのかな。
なら、僕は君と毛布にくるまれるわけにはいかない。
そこにくるまれてしまったら、僕は何もかも忘れて安心して目を閉じてしまうから。
だけど、どんなに頑張って起きてたって朝はくる。
毛布にくるまれようがくるまれなかろうが、それでも朝はきて、僕から君を奪う。

ぐるぐると頭の中を駆け巡る、我ながら子供地味た思考。
いとも簡単に、どうしたらいいのか分からなくなってしまうんだ。
どうやったら君を奪われないようにすればいいかなんて、夜の闇に紛れてしまうことしかできない僕には分からないんだ。

「…寒い」
ぽつり、零した僕の言葉は白く揺れて、声に感情なんて込められない僕の不器用さを補足してくれた。
「  」
君が僕の名前を呼び、躊躇し続けた毛布の中に僕を巻き込んでしまった。
相変わらずの有無を言わせない強引さに、僕はいつもこうして負けてしまう。
「次は、一緒に星空を見に行こう」
君はなんでもないようにそう言って笑った。
「月見草が見たい」
毛布の中、もごもご、僕は言う。
「それは季節が違うな。…あぁ、じゃあ月見草の季節にも、こうして一緒に出かけよう」
君は簡単に約束をする。

うそつき。

僕は内心毒づいた。
月見草なんて植物、本当はどこにもないのに。それを知ってて君は嘘の約束を簡単にしてくれる。
だけど内心毒づくだけで何も言わない僕に、君は僅か苦く笑った。

「…都合がいいんだな」
「そうだよ。知らなかった?」

甘いだけの嘘で塗り固めた約束でも、君を独占できるなら僕は、いくらでも、と思う。
それほど深刻さもなく、よくも考えずにさらりと。

「…もうすぐ夜明けだ」

ぽつり、君が言う。
大したこともなさげに、君の声は月以外何もない夜空に溶けていった。
ふわり、白く。
暁を呼び込む強さを伴って。

だから朝なんて嫌いなんだ。
僕は光を求めながらそれでも、朝を厭う。

僕から君を奪う朝を。
あまりに君に似た、憎みたいほど愛しい朝を。
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