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距離感の相違

互いに立つ位置の違いをまざまざと他者にまで見せ付ける必要なんてないけれど。
今日に限ってどうしたって目立ってしまうその距離感を、きっと周囲の人間は痛いほど感じて辟易しているのだろうと思う。
故意で示しているわけではないのだと、相手不在で言い訳を口にしそうになる。
それを口内零れる直前どうにか押し留め、暖かな湯気が揺れるコーヒーもろとも飲み下した。
多分、静かに隣に立つ彼女にはそんなものとっくに見通されているのだろうけれど。

「皆が皆、アナタのようにできるわけではありません」

言葉だけを捕らえると相当きつい台詞を突きつけてくる印象だが、そんなもの、日頃の彼女の人となりを知っているこちらにとって、彼女なりの優しさと気遣いが滲んで意図も簡単に相殺される。

「忘れないでください。アナタもまた、今まで間違えたことが一度もないとは言わせませんよ」

否、俺はむしろ間違いを繰り返し繰り返してきた。
誰よりも過ちを犯し、経験してきたからこそ今の自分がいることくらい、身に染み入り痛むほどに感じている。
もちろん、その時々己で判断してきたことは、正しいと信じて行ってきたことばかりだけれど。

間違いと気づく刹那はいつも、後悔と共に自分の残した足跡から生まれ、背後爪を立てるようにしてやってくる。

「なら、今日の俺は間違っているということか?」

思わず自嘲が零れる。
それを受けても尚、彼女はどこまでも平静を保ち、いつもの表情を崩さない。

「間違いかどうかはアナタが判断することです」

そう言って、自分のコーヒーカップに口をつけた。
そうしてしばらく黙り、何かを思案していた彼女が、ふとこちらを向いた。

「…いえ、アナタの場合、たまには他者に判断を委ねる時があってもいいのかもしれません」

とは言え、明らかに自分に判断を委ねろと彼女が言っているわけではないことくらい、俺にもたやすく知れた。

「委ねる相手は」

「アナタはすでに分かっているはずです」

「…だな」

分かりきっていた返答に満足しきれない複雑さは、彼女をも辟易させている距離感だ。
今、彼女に謝罪と感謝の言葉を口にしたとしても、彼女からの返答は目に見えて分かっている。
彼女とは無駄な一切を排除した会話のみで構成できて尚余るほど、互いの間、恋愛感情等とはまた異質な、ひたすらに静かで強固な糸で繋がっているように思う。

「悪かった。ありがとう」

「いえ。それは判断を委ねるべき相手に言ってあげてください」

想像通りの返答に、今度は素直に満足する。
静かで強固な糸を時折こうして手繰り、確認しているだけだ。

いつの間にかぬるくなったコーヒーを飲み干せば、もうここにいる理由はない。
俺が間違っているか否か。判断を委ねるべき相手は、このまま放置すればどんどん俺との距離を広げようと足掻くだろう。
俺たちの距離感に、周囲が辟易していることにも気づかずに。

「…行ってくる」

空になったカップをテーブルに置き、席を立つ。

ふ、

静かな彼女の唇、零れたのは溜め息ではないことくらい、わざわざ振り返り確認せずとも分かった。
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