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ふかふかのベッド

不意に。
ねぇ、と言って。
低く、通る声で笑って。
ふかふかのベッドから降りて、僕の沈む床に敷いたお布団へと降りてきた。
どこまでも優しく穏やかに目線を合わせて視線を奪って、あなたは頬杖をついて、にこにこと僕に微笑みかける。

ねぇ、僕の過去を、音を、風を、感覚を、感情を、覚えてる?
そう、あなたは笑った。

ふわふわふわふわ。

うん。よく覚えてる。忘れたことなんてないよ。
僕はあなたを真似て笑う。

ゆわゆわゆわゆわ。

真似しきれずに、それでも僕なりに。

あの時のあなたが好きだったよ、あのほら、こうして、手を、
あと、儚く微笑む時、ここが、こう、なるんだ。

拙い言葉とぎこちないジェスチャーで、昔のあなたの動きを真似る。

あと、こうして、ね。言うんだ、「    」って。
そう、このタイミングで。
あと、歩く背中がね、少しだけ、こう、なってて。
癖なのかな。こう、髪を触る時の指がね、
そう、そうするあなたも好きだった。
とっても好きだったよ。

必死で思いつくだけ思い出せるだけあなたを指折り数える。
僕は、お布団の上、うつ伏せた上半身だけ持ち上げて。
幸福だった記憶を手繰って。
大好きだったあなたを数える。

よく覚えてるね。

あなたは照れくさそうに笑った。
頬杖をついて、僕をふわふわの微笑みで見ていた。

僕に神様を教えてくれたのは、あなただよ。
僕に奇跡の煌きを見せてくれたのもあなた。
優しい闇をくれたのも、心の鍵穴の埋め方を教えてくれたのも。
二度と、消えない傷をつけてくれたのもあなた。

僕がゆわゆわ笑うのを、あなたは不思議そうに見る。

それは、君にとっていいことだったの?
不幸じゃないの。

欲しかったんだ。とても。
ちっとも不幸なんかじゃないよ。
あの時のあなただって、不幸じゃなかったでしょう。
むしろ僕の、幸福の絶頂だったのかも。
あなたがくれたんだ。

僕は笑う。
あなたも笑った。

ふかふかのベッドは、あなたを待ってる。
だけどあなたはいつまで経ってもベッドに戻らず、僕のうつ伏せるお布団の上で頬杖をついて、僕の言葉を待つんだ。

そうそう、続きだね、覚えてるよ。
あなたが笑ったあの日のこと。
月が見えなくて、寂しかった。月の真下で眠りたかったのに。
あなたは混沌とした空気の渦を、その手で作るんだ。
とても美しかったよ。

僕はつらつらと思い出せるだけ思い出す。
あなたは頬杖のまま、ふわふわ微笑む。

無防備なんてどこに落ちてたんだろうね。
あの頃のあなたは、決して仰向けで寝そべるようなことはなかった。
人と目を合わせて耳を澄ませる恐怖を知っていたから、あなたの瞳はいつも何も見ていなかった。
生まれたての赤ん坊と同じ、奇麗で透き通っていて、何も見えない目をしていたね。

だからこそ、あなたは美しかった。
だからこそ、僕はあなたを愛したんだよ。

覚えてるよ。
忘れる日なんてない。

目の前、頬杖をついて僕を見るあなたが、夢だと分かってた。
だけど僕はあなたを真似て笑う練習をする。

ゆわゆわゆわゆわ。

あなたは微笑む。

ふわふわふわふわ。

あの頃と、ちっとも変わらない、儚い微笑で。

僕はただ、あの日のあなたを愛してたんだよ。
大好きだったよ。とっても。
あなたのこと、忘れた日なんて、ないよ。
だから安心して、無防備に、仰向けにごろごろと寝転がって、深く、安らかに、眠っていいんだよ。

何度だって、聞かせてあげる。
僕が、どれほどあなたを覚えているか。
僕は、確かに、あの日のあなたを愛してたよ。

これが夢だと、分かるくらいに。
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