スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

小さい頃

小さい頃、願った夢は全て叶っていた。
小さい頃、願う夢が沢山あった。

小さい頃、今のこの瞬間の風の匂いを、大人になった自分にプレゼントしたいと思っていた。
だからお母さんに買ってもらった猫のパズルピースの入っていた箱に、お気に入りのタオルと小さな縫いぐるみを入れて、そっと蓋をして。
背伸びしなければ届かない、クマのプリントがされた可愛らしい箪笥の、一番上の観音開きになる扉の奥へ仕舞い込んだ。
きっと大人になった自分は、ここに背伸びなどしなくても届くようになるのだろうと、思っていた。

大人になって、それを開ける前に。
高校生だった自分が開けた。
そこには、思い出せるだけの風の匂いなどなくて。
ただ、くたくたになった懐かしいタオルと、薄汚れた小さな縫いぐるみがあるだけだった。
高校生の自分はそのタオルを洗濯して、また使った。
小さな縫いぐるみは、また同じ箱の中へ仕舞い、そのままだ。

小さい頃、大人になった自分のために残した風は。
まだ大人になっていなかった高校生の自分には届かなかった。
高校生の自分は、もう大人になったと思っていたのだろうか。
もし、今の自分があの時の箱を開けたなら。
自分は、あの頃の風の匂いを感じることができたのだろうか。
もう、大人になれているのだろうか。

小さい頃、祈る夢は必ず実っていた。
小さい頃、祈る夢が沢山あった。

大人になったら、それが全部、なくなるなんて考えなかったけれど、きっと。
いつか全部なくなってしまうのだと、どこかで覚悟していたのかもしれない。

小さい頃、二階の窓から抜け出して、屋根に登った。
針葉樹の濃い緑色と、空の青。雲の白と土の茶。
「危ないから気をつけなさい」
お母さんが怒るでもなく、笑って言った。
裸足で登った屋根の汚れが、足の裏を黒く汚すことなんて何でもないことだと思っていた。
大人になったら、屋根にも登れなくなると、きっとどこかで覚悟していたからかもしれない。
高校生になった自分は、もう屋根に登れなかった。
だけどその代わりに、道路脇に捨てられていたのを姉が拾ってきた猫たちが、屋根の上で風を感じてくれているのが嬉しかった。
小さい頃、自分が見た景色を。
きっと、あの猫たちが見ているのだと。
だけどその猫たちもいつしか、巣立っていった。
あの家は、彼らにとっての通過点でしかなかったのだ。
だけど、それでよかった。
彼らが自分の意思でその道を選んだのだから。
今は生きているのか死んでしまったのかも分からない。
だけど、それでよかったのだ。
あの風の匂いは、あの猫たちと小さい頃の自分だけの、宝物なのかもしれない。

小さい頃、大人になった自分のために残したプレゼントはもう、どこにもない。
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。