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僕らはどこにも「到達」しない。

真っ青な大空の真っただ中、くるくると螺旋を描くふたつの影は、急上昇しているのか急下降しているのかすら分からなかった。
それは多分、見る人がそれぞれに判断すればいいことだと思った。
どちらが正解でどちらが不正解かが重要なのではなく、ただ、俺は知っていた、という事実が問題だと思った。
そう、知っていたのだ俺は。

嗚呼、ここは海の底だろうか。それとも青空の最中だろうか。と君はぼんやりと呟いた。

今ここにいるのは俺と君だけだったけれど、結局君のそれは俺に対する問いというよりただの独白。
極論海でも空でも構わないのかもしれない。と俺は勝手に判断し、聞き流す姿勢に徹した。今更変えることなんて出来やしないしと。

耳の奥、ごぼごぼと大きな気泡の塊が弾ける音がした。

嗚呼、確かに分からない。と思った。口にはしないけれど。
俺はずっとここを空だと思っていたけれど、確かに君の言う通り、海の底かも空の最中かも分からない。
何をもってして空だと思っていたのだろう俺は。君より何もかもを知っているつもりでいて、結局俺は君と同じだったのかもしれないね。
だけど分からないならそれでもいい。独白すら俺は口にしない。


その手はあたたかいのだろうか。俺は時々思う。
その冷たく頑ななものをひっしと握りしめ強張ったその手は、あたたかいのだろうかと。
だけどそれを確かめたりなんてしない。
その手に手を伸ばしたりなんて愚行は絶対にしない。

だってもしあたたかかったりなんかしたらきっと俺は、「知っていた」事実も何もかもいとも簡単にかなぐり捨ててしまいそうだ。






俺たちに、正しい意味での「ゴール」なんてないのに。
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切片からして

大切に抱いて走れるものはいつもたったひとつだった。
目の前に選択肢がいくつあろうと、結局この腕に抱けるものはひとつだけなのだ。
その他のもの全てを捨てるしか、守る方法がなかった。
例えそれを守るがためにこの身の端を破片が飛び交おうとも、一度このひとつだけと決めてしまったものは覆さない。
唯一と胸に抱いたそれが、もはや僕そのもの。もしくはそれ以上のものだと信じている。信じるしかない。
僕は結局そういう「存在」なのだ。

だけどせめてと願うくらいは許して欲しい。
僕が他の全てを投げ打って強く、壊さぬよう大切に、この身を削ってでもと守るたったひとつよ。
せめて僕の両腕の真下、その腕を伸ばして僕をしっかと抱き返していておくれ。
どれほど突風が吹こうとも、どれだけ大雨が降りかかろうとも、決して離さず強く強く抱いていておくれ。
唯一の君を抱きしめる僕の胸はいつだって凍える暇なく温かいけれど、君がそうして僕の背に両腕を回していてくれないと、僕の背中はこんなにも寒い。

切れ端、または断片的なもの

スーパーに積み上げてある安価なブレンドコーヒー豆から抽出したブラックコーヒーは、その値段と全く相応しくすさまじくまずかった。

お前の欲しいものは、決してお前のその手には届かないんだよ。
何故なら、お前は自分のその手に届かないものばかりを欲しているからだ。
わざと選んでいるのではないのか。それとも無意識選んできたのか。
そもそもの出発点からお前は間違えた。否、分かっていて外したんだ。だってまずそれを諦めるとを決めたのはお前自身だろう。無理だと決めたのはお前だろう。
お前が本当に欲しかったのは、その出発点であったたったひとつだけだったのに。
そしてそれはもう、二度とお前の手など届かない場所にある。

嗚呼可哀想に可哀想に。
どれほど他の誰が、何が、お前を慰め満たそうと足掻いたところで、お前は決して慰められやしないし、満たされやしない。
正しく時間を巻き戻したとしても、きっとお前はまた同じように諦め満たされない道を選んでしまうのだろうな。

嗚呼お前は多分、誰より何より優し過ぎたんだよ。
自分にも、他人にも。分け隔てなく万遍なく。ひたすらに、ひたすらに。
そんなコーヒーとも認めたくもないようなこげ茶色の泥水なんて、さっさと見切りをつけて排水溝に流してしまえばいい。
豆らしきものがまだ沢山入っている袋もそれごと捨てろ。
そしてもういくらか値段の高い、せめて日にマグカップ一杯飲めるくらいの味のものを買え。

安物買いの銭使い。
だが、石橋なんて壊れるまで叩けばいいんだ。
お前を臆病者と罵る奴らを笑ってやれ。

「それの何が悪い」と。

例えば、こんな世界。

最初に言い訳を言わせてもらうとすれば、俺は別に神様とかそういうものなど信じちゃいないし、まして自分がそういったものの皮を被って真似ごとめいたことがしたいわけでもない。
畏怖されようが祈られようが信仰されようが迷惑以外のなにものでもないし、かといって勝手に無闇に俺を神格化した結果俺がその信じたことと違うことをしたというだけで憎まれたり恨まれたり絶望とかされても困る。
誰かの理想通りに生きるなんてまっぴらごめんだ。俺は、俺がしたいように勝手にして生きて、いつか勝手に死んでやる。
ずっとそう思っていたし、多分これからもそういった基本的なところは変わらないだろう。

だけど目の前に。
何も知らない、何も持ってない、何もない君が。
まっさらな君が、酷く脆弱な状態で存在してたから。

あんなに願ってあんなに口にしてあんなに努力しつくした俺の願望とか欲望とかそういった形なき状態に、あっけないほど簡単に君がなっていたから。
目の前に、俺の目の前にゆらり、いたから。

別に君を救済しようなんて欠片も思わなかった。
むしろ俺をすら忘れたまっさらな君に対してできる、唯一の嫌がらせみたいなもんだって。最初は。
だって俺はもう、君に相対した時、君の眉間に深い深い皺を刻むのが使命みたいになってしまっていたから、いつの間にか。もう覚えていないくらい昔から。いいや、もしかしたらつい最近。昨日?それはないか。
とりあえず、きっと君と俺とが出会う前から、出会った時から、別れた時から、何度も出会う日々に、何度も別れる日々に。そしてこれからもずっと。生きて、死ぬまで。死んでもずっと。
君の眉間に皺を刻むのが、俺の使命みたいなもの。俺の生きがい?そう思うとまた複雑だけれど。どっちかっていうと楽しみ、とか趣味くらいにしておきたい。
悪趣味だと笑われるのは慣れているし。
俺の長年の?努力の結果、君はもう俺の顔を見るだけで、むしろ、俺の名前を耳にしただけで眉間に皺を寄せてくれるようになっていたのに、そういうのも含め、正しく全部脱ぎ棄ててしまっていたから、それなら今できることをしようと思った。
今の俺が、まっさらな君にできる嫌がらせめいたものを。と。

俺は、君が願うものを知っていた。
俺は、多分、その使命?趣味?と同じくらいいつの間にか。ずっと、知っていた。
だから、ひとつひとつ差し出した。嫌がらせのつもりでひとつひとつ。

『これが欲しかったんでしょう?』

あぁそうそう、これも。あとこれも。欲しかったでしょう?あげるよ。と。

だけど余計なものを全部ぜーんぶなくした(捨てた?)君は、無垢な子供のような大きな目でこちらをまっすぐ見つめながら、俺の思惑など全く知らずにどこか申し訳なさそうに首を振る。
俺についぞ見せたことのない表情で首を振る。

「いいえ。僕は確かにそれらを欲しがったけれど、それは手になかったから欲しがっただけです」と。

誰より強い身体も、誰より知っている脳も、誰より見渡せる目も、誰より聞きとれる耳も、確かに欲しいけれど、すごくすごく欲しかったけれど、僕はそれより、誰かに優しく触れられる指先と、誰かを思いやる優しい心が欲しいんですと。君は言った。

『じゃあこれは?』

俺はそれがなんだか面白くなくて、なにそれつまんない。と声には出さずに心の中で吐き捨てる。
そして、そんなことはおくびにも出さず、内心妙にムキになってさまざまなものを君に差し出した。まるで神のように。
俺が差し出したさまざまなものを、君は、君だけの価値観で、どこまでも無垢でまっさらな君で、受け取ったり受け取らなかったり。
時間をかけ、吟味を繰り返しそれら君がチョイスしたものたちを改めて目の前に並べて見て、俺は呆れた。心底呆れた。

『それでは全くの普通だ』

だけどそう口にした瞬間俺ははっとした。
そう、何より君が欲し、その手にないことをまるで獣のように嘆き叫んだものはそれだと。
嗚呼、俺は知っていたのに。

別に俺は神様とかそういうものの真似ごとがしたかったわけじゃないし、君を救済したかったわけでもない。むしろ嫌がらせをしようとしただけだ。
沢山のものを背負い生きる過程で欲したもの全てを手にした君が、一体どのようになるのか知りたかった。どのように考え、どのように生きどのように死ぬのか見てみたかっただけだ。
これ以上ないくらいの最高の一揃えを持ってして、満足しきった人生を閉じようとした君に、その死に際それを与えたのは俺だと知らしめて突き落としてやろうと思っただけだ。
きっと。そうだ。

俺は君が本当に欲しがったそれを、知っていて。
本当に本当に欲しがったそれだけは、渡したくなかったのに。多分、渡したくなかったのに。
他の全てを与えても、それだけは。

だって君が、それを手にしてしまったら、




君はなんだか申し訳なさそうにはにかむように、俺にはついぞ見せなかった表情で頭を下げた。
そんな君が見たかった。…見たくなかったような気もする。いや、…どうだろう。
俺は内心ぐるぐると巡る自分でも不可解な矛盾した思いをおくびにも出さず、ありがとうございました。なんてありえないセリフを吐く君をどこか脱力して眺めた。
この場合、俺の負けなんだろうか。なんてわけのわからない敗北感とともに。

君のそんなくすぐったげな嬉しげな微笑みなんて、反吐が出る。俺はやはりそんな思いもおくびに出さず君を見つめるしかできなかった。呆然と。

すると、今の今まで俺の質問に答える以外の何のリアクションもしなかった君が、嬉しげな、どこか照れたような表情をふと暗くして僅かに眉間に皺を寄せた。
だけど、俺が使命?趣味?にしたそれとはまた違う皺だった。
どちらかというと不安げな。何かを探ろうとするような。俺についぞ見せたことのない種類の皺だった。
どうしたんだろう、何か不満でも?これ以上ないくらい君の希望通りなのに?と不思議に思っていると、君はふと大きな両目を俺に向けた。
先刻までずっと、俺の方を向いてはいたけど、俺の両目にはっきりと焦点を合わせられなかった君が、俺の両目をまっすぐ見た。
ぎゅう、と焦点が引き絞られるのが分かった。

どこか申し訳なさそうに、無垢な子供のように、
本当に本当に欲しかったものだけを手にしたまっさらな君が、

「…どこかでお会いしたこと、ありましたか?」

きゅ、と喉の奥が軋んだことに驚いたけれど、やはり俺はそんな些細なものもおくびに出さずに微笑んだ。
小さな子供にするように、優しく優しく微笑んだ。
声が震えそうだった。何故か知らないけど泣いてしまいそうだった。君の両肩を掴んで何か叫んでしまいそうだった。
だけど頬に力を込めて、


『ないよ』


それだけ、ようやくそれだけ言った。





それを手にした君となんて、会ったことない。
きっと、今までも、これからも、ずっと。

それを手にした君はもう、俺という存在なんて必要ない。
それを手にした君なんてもう、俺には必要ないのだから。


嗚呼、その手から今すぐそれを毟り取りたい、なんて。
俺は別に神様とかそういうものでもないくせに。
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