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目を閉じておけば

先の先を見通せるような力は元々ない。
それでも経験だとか知識だとか、そういったものと、人並みな視力とが予想という形で擬似的な未来を見てしまうから。
だから竦むんだと君は目を閉じた。

見えなければいい。知らなければいい。分からないままならいいのに。
そうしたら、きっと俺はこんな風に竦みあがってしまったりしないのに。
お前を目の前にして、怖気づいたりしないのに。

俺の目には今、擬似的な未来が見える。
お前に向かって伸ばした両手はまるで縋るよう。
そんな俺の胸のど真ん中、お前の両手は俺を押し返すんだ。
俺の手は行き場なんてない。お前以外のどこにもない。だけど届かない。
決定的に届いていない。
…竦むだろう?

君は自嘲するようにして吐き捨てた。

どうしてそんなことを言うのだろう。
どうしてそんな風にしか思えないのだろう。
確かに僕だって、未来は光にのみ照らされ、薔薇色に輝いているなんてあまりに幸福すぎるほどの楽観主義ではいられない。
だけど何もそこまで。そんなに。

…そう。君はそうやって心情を吐露することで。
他の誰でもなく、僕にそうやって懺悔することで。
そうやってそうやって、僕を拒絶するんだ。

縋るように両手を伸ばすのは君じゃない。
胸の中心を押し返す手のひらは、僕のじゃない。
竦むのは君じゃない!

「アンタは馬鹿だ」

僕は恨むような気持ちで君を睨む。
だけど君は、お前にそれを言われたらおしまいだな。とまた自嘲するように呟いて、うっすら瞼を持ち上げた。
だけどすぐにまた目を閉じてしまう。
寸分の隙もなく、ぴったりと。

臆病者は夢を見ない。
目を開けて見る夢にも、目を閉じて見る夢にも見ない。
だとすれば、君は一体どうやって。僕は一体どうして生きていけばいいのさ。

目を閉じておけば。目を閉じてしまえば。
君はそう言うけれど、

「無駄だと思うよ」

僕はできるだけ君を真似るようにして冷たく吐き捨てた。
そうだな、と普段では考えられないくらい素直に君は、僕の意見を受け入れ笑った。
苦く苦く。ひたすら苦く。まるで泣いてるみたいに。
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かかとなんて意味がないの

急いで急いで、爪先立ちのまま息せき切って。

蹴り上げる地面はどんどん背後に。

裸足のまま。

剥き出しの焦燥と一緒に。

伸びかけた煩わしい爪を、まだ切り落とせなくても。

さわさわと乾いた音を立てて揺れる髪のひとひらが視界の端っこで踊っても。

急いで急いで、今この瞬間爪先を立てた地面を背後に。もっと。

境界線

僕と君の間には、いつだってどうしたって越えられない境界線がある。
そんなこと、人として生まれ出でた瞬間から嫌というほど分かっていた。
この世に生まれる直前まで僕らは母体の中で母体と直結して生き、生まれた瞬間、母体と個体に別れてしまう。
晴れて個体となった僕らは、自分が生まれると同時に生じる他者との境界線を日々思い知りながら成長していくのだ。

境界線の最果てを探して生きるのだ。
果てなんてないのだけれど。

境界が生じることが全て悪いわけではない。
生まれた瞬間、個体となり他者と切り離されることに対して、不安と同時に喜びだって知った。
自我を持てるということ。他者と自分という立場で誰かに触れ合ったり関わり合ったりできるようになれたこと。
そうすることで、生きていけること。

だけど。
だけど、ねぇ、こんなにも思い知るなんて。
まだこの自覚を上回る知覚があるなんて。
僕は想像だにしたことなんてなかったよ。

こんな日なんて来なけりゃ良かったと心底歯がゆく思った。
だけど、それと同時に僕は、この日をこんなにも待ち侘びていたことを知った。

肉体という境界線があるお陰で僕は今、君の頬に手のひらを触れさせ、その温度差を知ることができる。
だけど、肉体という境界線があるせいで僕らは今、互いの内心を知ることもできず、互いに正しく知らせることもできずに途方に暮れる。

あぁ、どこまで行けば。どうすれば。
僕と君の間の境界線が、…完全になくなる場所なんてないけれど、それでも少しでも。ほんの少しでも薄れる瞬間までたどり着けるのだろう。

僕は、この両足で立つ。
君もまた、その両足で。

互いの正面に立ちながら、そしてこうして手のひらと頬とを触れ合わせることを望みながら、受け入れながら。
目と目を合わせる勇気もなくて、途方に暮れる。

「…分からないことが多すぎるんだ」

「そのことをお前が恐れるのか。らしくないな」

ふん、微かに鼻で笑う君が、僕の目線より僅か上で両目を細めた。
そうすることで、この至近距離でも僕と完全に目を合わせる危険を冒すことなく、僕を見やることができると知っているからだ。
臆病なのは僕より君だと僕は言いそうになって、…言ったところで何も変わらないと口を噤む。

「分からないことがあれば無理やりにでも。例えそれが知る必要のないものでも、知ることで自分の立ち位置を危うくするものでも知ろうとするのがお前じゃないのか」

だから今お前は俺の目の前にいるんじゃないのか。

君は今の僕にとって。このように途方に暮れるまでになってしまった僕にとって最も残酷な言葉を吐いて小さく笑った。
違う。なんて否定の言葉は、口にしたところで意味なんて成さない。
ここまで僕と君との間にある境界線を思い知った僕らには、もうどんな言葉だって無意味なんだ、きっと。

それでも。

「それでも僕は、僕として生まれ、生き、今ここでこうして君の目の前に立っていることを後悔したりなんかしない」

「……それでいいんじゃないのか。それがどれほどくだらなく、愚かな判断だったとしてもな」

お前がそれでいいのなら。
君は無感動を装って何もかもを僕に投げて寄越す。
ずる賢くて、臆病で、誰より優しい君はそうやって、僕から逃げる。僕を逃がす。
僕らの間に恐ろしいほど確実に存在する境界線を、僕と君とに思い知らせる。

あぁ、いつだってどうしたって。
僕がどれほど最果てを探しても、君が全てから目を逸らす。
そうすることで、僕を最果てから遠のかせ、君もまた思い知るのだ。
果てなんてないのだと。
だからこそ僕らはこうして、何度でも何度でも向かい合い続けるのだと。

そこに爪を立てるのは、引き裂きたいから

常時酷く短く爪を切りそろえる癖が抜けないなら、その無様な爪先ででも抉りたいものもあるということ。
そういった衝動を肯定してやることからしか始められないなら、内側で幅を利かせる膿のようなものを自覚したということ。
そう、その膿はね。分かってるんでしょう、放置したらしたでどんどん増えて内部から外部を圧迫していくことを。
醜く膨れ上がった皮膚の真下。そう、そこ。そこんとこに。

あるよね。あるんだ。確かに。

歯を食いしばれば大概大丈夫。どうにだってなる。多分だけど。
でもそれでもついそこに爪を立てるのは、いっそ全てと引き裂いてしまいたいからだ。

どうあっても答えは知れないらしい

意識しなかったらしなかったで無理やりにでもこの目に映ってくるくせに、あえて意識すればそれは意図も簡単にこの視界から失せた。

代わりに、3つの通り道を見た。
結局どのようなものでも思い通りになんてそうそういかないのだと言われた気がしたけれど、3種類もの通り道はそれぞれに輝き、結果だけ見ればそれなりの轍になるのだと知った。
3つの道は互いに両手を繋ぎ、中央に寄せた3つの顔がことあるごとに独特の密談を楽しんだ。
そうして感化しあいながらぐるぐると螺旋を描いて、上昇したのか下降したのか。

『あなたはどれを選択したい?』

もしも3通りしかないのだとすれば、多分私の理想は最後の道なのだろう。



不意に芽生えた悪戯心と好奇心で伸ばした指先に、それは意外と柔らかく、あたたかかったことにとても驚いた。
ゆわりと持ち上がったその隙間から僅かに見えるそれはどこまでもあまやかで魅惑的で、あとから罪悪感にとらわれるなんてちっとも考え付かなかった。
あの時、忘れて行ってしまった真珠色の粒は、いつか巡り巡ってこの手のひらに戻ってきてくれるのだろうか。

例えば、全てが思い込みだったりとか、

目の前に、見たこともないような。どこかで見たことがあるような。
どこにでもあるような。少しばかり珍しく見えるような。
そんな、木製のドアがあった。
大きなドアだ。

擦りガラスがはめ込まれたドアには、鈍い銀色のドアノブがある。
丸い、ドアノブ。
鍵穴はない。
否、あったかもしれない。
それすら曖昧だ。

とにかく、そのドアノブに手を伸ばす夢を見た。

伸ばした手がドアノブに触れるか触れないか。

いつも、そういう大事なところで目が覚めてしまうのは何故だろう。

あの鈍い銀色のドアノブは、冷たかっただろうか。
それともぬるかっただろうか。
触れられたとして、それを回すことはできたのだろうか。
そして、そのドアを内側に?外側に?

…開ける夢を見られるのは一体いつだろう。

あのドアの向こう側には何があるのだろう。
次の部屋?廊下?外?
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