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本当に困っているのは僕の方だというのに。

「そんな困った顔をしないで」と僕に微笑みかける君の方が僕よりもっとずっと困り果ててるみたいな顔をしていた。
まるで駄々をこねる子供を目の前に、どのように振る舞い、どのような言葉をかければいいのか分からず途方に暮れる親のようだとすら思う。
そのくらい。君の薄く細められた瞳には隠しようもないくらい、僕に対する感情が溢れているのだ。
優しさだとか情だとか、なんと説明すればいいのか分からないけれど。
とにかくひたすら君の瞳のあたたかな色を形作る全ては僕に。惜しげもなく僕だけに注がれていることだけは分かる。
僕にだって分かるけれど。




(一旦停止)
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歌うように

まるで幼子のようね、おちびちゃん。
私は胸の奥深くが妙にくすぐったくて、ふ、ふふ、笑みを零し落としながら彼を見やる。
彼はどこか恨めしげにこちらを横目に睨み、唇の先を尖らせた。

するり、すり抜けるならそのままに。
だって僕にはそれを止め、無理やり引き戻すだけの長くたくましい腕も、掴む手のひらもない。
例えそれらがあったとしても、そうする権利の欠片もない。

あら。もう諦めたの。早いのね。
私は「仕方ない」なんて使い古された、全ての物事を一刀両断してしまう残酷な言葉を吐かずに済んだことに、内心少しだけほっとしながら笑った。
だけど彼はかぶりを振る。

そんなにすんなり諦められるものではない。
だけど、それ以外に方法がない場合、諦めがつくまでひたすら息を殺すしかないじゃないか。

「仕方ない。のだろう?」

ひゅ、

途端、か細く鳴った情けない喉は、私のと彼の両方だ。
彼の内側に凝っていたとてもとても寂しい何かが、彼の喉を鳴らし、私の喉を鳴らしたのだと思った。

両手を伸ばせば簡単に届く距離に彼の身体はあるのに、それでも私は両手を伸ばして彼を抱いてあげられなかった。
こんなにそばにあって、これほどまでに遠く離れることへの耐性がまだ私には備わっていなかったからだ。

まるで迷子のようね、私たち。
私は胸の奥深くが妙に痛くて、ふ、ふふ、笑みを零し落としながら彼から目を逸らした。

灰。

もくもく。紫煙渦巻く狭い世界の最中。
飛び交う君に猛毒の灰を被せましょう。

上唇と下唇の間、こなした数だけ正しく慣れた形を挟んで笑う。
そのまま喋ることだってできる。

もくもく。様々な大切なものを紙に包んで火をつける。
発生する煙も当たり前に猛毒だ。

青紫色の煙を肺いっぱいに吸い込んで吸い込んで、毒素を漉してから白い煙を吐く。
もうどのくらい沈殿したのか。時々開いて見てみたくなるんだ。

「いつか」が来ても、「もしも」が来ても、分け与えてあげられないくらい使い古して、僕の代でこれはお仕舞い。
このまま、様々な大切なものを燃やしたみたいに、最後も燃やしてはい、お仕舞い。
そんな終わりが一番似合う。多分。

灰被りになんてなりたくないけど、灰そのものにはなってみたい。

声が聞こえたら

この耳に呼び声が聞こえてしまったからには、それを無視し続けることなんてできない。
その声に対して聞こえないふりを続けることには想像以上に忍耐力と冷酷さが必要なのだ。
そして、そんなもの僕にはない。
君に呼ばれていることに気づき、咄嗟に顔を上げてしまった僕にはないんだ。

僕はその声のありかを探してさ迷い歩く。
僕を呼ぶ声に大声で応え、もっと僕を呼んでくれと祈る。
その声で僕を君の元まで導いてくれと。

ねぇ、僕の声は君に届いているだろうか。
君が僕を呼ぶ声に応え、君を呼ぶ僕の声が。

僕は君と出会えるだろうか。
君は僕に笑ってくれるだろうか。
盲しいた僕が君の元まで辿りつくまで、君は僕を呼び続けてくれるだろうか。

真っ暗闇の中を手探りで歩く。
君の呼び声だけを頼りに、まるで僕の方が縋るようにして。

いつかこの両手のひらの中、君を優しく包み込む日が、僕らの間に訪れますように。

抱きしめるように、君を呼ぶ

この世に生れ落ちた瞬間から、今の今まで。そして多分これからも。もっと。
僕らはありとあらゆるものを犠牲にして成り立っている。辛うじて生きているのだ。
僕はそれら犠牲全てを正しく積み上げ数え上げられるのだろうか。
償えるのだろうか。慰められるのだろうか。

これからも生きることによって。
今、死ぬことによって。

丸々とした美しい黒目が艶々と目の前で小さく震えた。
僕はそれを見下ろしながら、その黒目を包む濃い睫や、彼女の長く艶やかな甘栗色の真っ直ぐな髪を眺めた。
その繊細なひとつひとつを目に焼き付けるように。慎重に。確実に。
これから先、僕らに何があろうと決して忘れることがないように。

僕らはこの世にあるありとあらゆるものを犠牲にして、今、ここで生きている。
これから先も多分きっと。もっと。
彼女の小さな両手では、そして僕の荒れたボロボロの手でも数え切れないくらいのそれらを、僕らは償う方法も、慰める方法も知らずにひたすら生きる。
そう、生きる。

「そう、…生きるんだ」

僕は強く歯と歯を噛み合わせて真剣に誓う。
目の前に佇む小さな少女に誓う。
彼女もまた、その外見の幼さに似合わぬ気高さで凛とそれを受け止める。

僕は思わず叫びそうになった。
世界の果てまで届けとばかり、喉が張り裂けんばかりに大声で。

僕は尊いものと出会った!
尊いものを守ることができるんだ!
そう、君と!君と一緒にだ!

「さぁおいで。君も行くんだ。僕らと一緒に」

僕はまるで胸の内に大切に抱きしめ全てから守るようにして彼を呼んだ。
鮮血のような赤い瞳の彼は、何の抵抗もなく僕を心の奥底から信頼し、僕に呼び寄せられてくれた。
僕と彼だけが抱え込むことを許された、馬鹿馬鹿しいほど頑なな使命感を疑いもせずに。

暗く儚い荒れ果てたこの世にあって、それでも諦めきれないものが胸の内に残っている限り、僕らは彼女と共に行く。
だって、夕焼けの最中にあちらこちらで僕らの方へ向いて手を振る人々の、その笑顔のなんと晴れやかで気高いこと。
僕らはその光景に胸を震わせ、背筋を真っ直ぐに伸ばし彼らに精一杯応え背を向けた。
それだけで、敵ばかりの世界全てを味方につけたような気がした。

僕は弱い。僕は無力だ。
それでも、…何か。あちこちにいた沢山の人々と、今僕らの周囲にいる人々。目の前にいる彼女の。そして僕の両腕の中の彼と、僕自身の。
今まで犠牲にしてきた沢山のものたちを分け合い背負いあって、行ける。
まだ、僕には歩ける足があるのだから。
彼や彼女を抱きしめる両腕があるのだから。

すっかり日が暮れた真っ暗闇の世界の中で、僕らは燃え盛る炎の光を真正面から受け立っていた。
オレンジ色の光は、もうもうと、ゆらゆらと不規則にかたちを変えながら僕らの頬を照らし、真っ黒な夜の空にしんと浮かぶ月の清廉な白をも、少しだけ甘く染めた。

そっと

妙に手のひらが湿っているけれど、衝動のままそっと手を伸ばした。
本当なら石鹸でごしごしとこすってよく濯いでからの方が断然いいことくらい分かっていたけれど、今、と思った瞬間を逃したら、この次この手はいつ伸ばせるのかと。

撫でた指先に僅かに付着した細かな埃の粒に、少しだけ驚く。
常時埃というものは空気中に存在するものだけれど、どうしてこんなにも呼び寄せてしまうのだろう。
冷たい手汗がそれを捕まえ、目に見えるまでに集った。
場所も状況も考えずに適当に叩き払えばそれなりだけど、そっと席を立って手を洗いに行こう。

今、は多分、もう終わったから。

また、今、と思うその瞬間まで、また手のひらは湿り、埃は集う。
そっと手を伸ばせるその時まで、そのまま。そのまま。

先を予測することで、何かから逃れられるのだろうか

「多分ね、彼はきっとあなたの鏡になるよ」

君は何故かどこか嬉しげに、それを心から待ち遠しく想うかのように目を細めて言った。
両手を口元に当て、抑えきれずにくつくつと肩を揺らして笑う。
笑みを隠すふりをして、実はそんな気全くないのだろう。

僕はそれどころではない。
どういうことだと真剣に焦る。
だって彼が僕の鏡になるなんて冗談じゃない。僕を正しく左右逆に映してしまうなんて笑えない。
なんで笑えるんだ君は。なんでそう振舞える。なんでそんなに嬉しげに楽しげに。
サンタからのプレゼントを心待ちにする無垢な子供のように。

「多分ね、彼はきっとあなたを映す」

冗談じゃない。僕は慌てて言うけれど。
心底それを期待するようなきらきらとした瞳でこちらを見やる君を見て、それから先を続けられなくなってしまった。
気づいた瞬間、愕然としたのだ。

『その結果』を作り成すのは君じゃない。僕だ。
君が望むから。
君が、心の奥底から『その結果』を僕に所望するから。

君は、僕の鏡だから。
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