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連呼、錬成。

実際に声に出して君の名を呼ぶことを、あれほど躊躇したというのに僕は。
一度声に出した君の名のその発音ひとつひとつ、その一回一回につけ、着実に増していくもこもことした、ふわふわとした、なのに恐ろしいほど確固たる存在のなんと狂おしいことかと。

一度声に出した刹那からそれは、とめどなく増え積みあがり溢れ、また。

「あぁもう、」

僕は笑ってしまう。
もう笑うしか僕なんかにはできることなんてない。

「…ね、名前は声に出して呼んでしまうとこんなにも強大なものになる」

だから怖いと言ったんだ。
だから。
だから声になんて出せないと言ったんだ。
もう全部、後の祭りだけれど。

「大ごとなものほどこんなにもあっけない」
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呟いてしまうのは

結局、自分以外の誰の気持ちも、正しく全て理解しきることなんてできないのだ。
どれほど長く付き合いがあっても、血が繋がっていても、どれだけ深く関わっていても。
だから想像するしかない。
対比材料が自分しかないから不安感は拭いきれないけれど、それでも想像するしかない。
こうしたら喜んでもらえるだろうか。こう言えば悲しませてしまうだろうか。
その想像はどれほど沢山様々な種類の選択肢を作ったところで、結局想像でしかなくやはり正しくはない。
だけど想像するしかない。

君が嬉しいと僕も嬉しい。
君が寂しいと僕も寂しい。

そんな、至極単純でいて説明不可能な感情を抱いてしまった時点で、他に静かに歩み寄ったり、そっと寄り添う方法なんてない。

君が喜ぶかもしれない、と想像するだけで浮き足立ち、君が苛立つかもしれない、と想像するだけで目が泳ぐ。
僕みたいな小心者はそれでもやっぱり、想像するしかない。

どうか、君の知覚する「君の世界」が、例えどれほど狭く小さな箱庭だったとしても、君にとって心地よく鮮やかなものでありますように。

その瞬間から、僕の背後の色彩が変わったんだ

どうしようもないことって、意外と多い。
子供の頃の僕はそんなことも知らずに暢気に。でもどこかキリキリと張り詰め戦闘体勢をとったまま生きていた。

歌を歌おう、とふと思った。
ありきたりで、ありふれた、だけど「今」にぴったりな歌をと。

どうしようもないことも、どうでもいいことも、意外と多い。

だけどなんでもいいんだ。許せることも、意外と増えた。

会いに行くよ

少しずつ、少しずつ、言葉にしていけばいくほど。
当初に思い浮かべていたイメージがことごとく崩れていってしまうけれど。
予定と違うなぁなんて呟いて苦笑してみつつ、多分これもいいんだろうと思っておく。
少しずつ、少しずつ、焦点を絞っていくように。
曖昧だったものが形を成していこうと足掻く様は、なんだか生命の発生の過程みたいだ。
言葉は命をも成す。と言うとさすがに言い過ぎかもしれないけど、命の定義をもう少し大きくしてみると、なるほどそれほどの力があるのかもしれないとも思う。

ひたすらひたすら綴るけれど、多分いつか綴ったこの手でいとも簡単に消去するだろう文章たちを、今はそのまま。
無造作に転がして広げておける場所がある分、仕合わせなのだろう。

会いに行くよ、会いに。
いつかきちんと向かい合って、「お願いね」と託せるように。

言葉のバトンタッチは、命のバトンタッチに匹敵するくらい凄いことだったりすることも、…時々ある。と、信じている。

読み解く夢際

一枚一枚、丁重に捲り捲る白紙のページの合間から、文字が言の葉が溢れるようにして宙に舞う。
それら一文字一文字を指先で捕まえいちいち目の前に翳して確認しながら、なおかつ抑えたページが閉じてしまわないように気をつけなければならない。
そうこうしている内にまた、言葉がとめどなく溢れてくる。
片手にはページを抑えた本。もう片手だけで全て捕まえられるだろうか。
うかうかしていたら逃してしまう。
大切な文字が、言の葉が、指先するりと逃げてしまう。
一文字すら逃がすわけにはいかない。
だってその一文字の核心に大切なものが隠れていることがあるからだ。

読書は時々、言葉との追いかけっこになる。
これが結構大変なのだ。
そして結構楽しいのだ。

切り開くことと、縫い合わせること。

手に持った鋏はいつもの安い文房具用ではなく、裁縫用の裁ち鋏だった。
あの持ち手の黄色い華奢な文房具ようの鋏は一体どこに行ってしまったのだろう。
幼い頃、あの子に貰った大事な鋏なのに。
もう随分と酷使して、だけどなかなか壊れない。どこにでもある、大切な鋏。
思い出と共に様々なものを切り離してきた、ちゃちな鋏。

だけど私は迷わず裁ち鋏で布を切った。
左手に握った柔らかなニット生地の布を、裁断する。
さくり、さくりと。裁断ラインが乱れてしまわぬよう、できるだけ真っ直ぐ。無駄なく。

切り抜かれた柔らかなニット生地を合わせ、マチ針で止め、使い慣れた大きさの縫い針に布と同系色の糸を通す。
切り離した布と布を、縫い合わせる。
平面でしかなかった布を、立体にするために。
何かを吹き込むように。縫い込むように。織り込むようにして。

するり、

手のひらから柔らかなニット生地が逃げた。
それはあまりに自然に流れ落ちるようにして、私の膝の上に落ちた。
そしてそこからどこにもいかない。
どこにも。

私は一旦行き場をなくした縫い針と糸とを右手に、左手を宙に止めたまま。
しばらくそのままぼんやり座り込んで前方を見ていた。

「…きっと」

きっと、

言いかけて、なんだか嬉しくなって笑った。
言葉はそれ以上続かなかった。
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