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楽観

裸足の爪先が冷たく凍ったコンクリートの、小さな凹凸の上を捉え、蹴り上げ、跳躍する。

まず完璧に構築した上で、「完璧過ぎると逆に人間としての完璧さを損なう」という理由で少しだけ、少しだけと引き算していったかのような人が、僕の目の前で跳躍した。

その飛び立つ刹那、空中滞在、落下、着地までのほんの僅かな時間を、僕は無駄に消費した。
否、無駄だと思わなければ無駄にはならない。
だけど「僕が僕のために消費する時間」とは違うから、無駄だ。
彼の跳躍するシルエットはそれはそれは美しかったのだけれど。
僕の心のヒダは確かにその僅かな時間、震えたのだけれど。


大声で君を呼ぶ夢を見た。
喉が張り裂けんばかりに、このまま潰えても仕方ないと思うくらいに、大声で。
そうでもしなけりゃ、常時一体どこからこんなに人が集まってきたんだと思うくらい人、人、人でごった返した繁華街の、車の通行量も多い道路の反対側を歩く君を、こちらに向かせるなんて絶対にできないと思ったからだ。
焦ったからだ。
必死だった。必死に君を呼んだ。
だけどよどみなく歩み続ける君はそれでも全然こっちに気づかない。
駄目だ駄目だ駄目だ、気づいて!

げほげほと咽て、目が覚めた。

結局君の遠のく横顔は一度してこちらを振り返ることはなかった。
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レースカーテンの波間から

ぶわりぶわり、風に揺られるレースカーテンの白が時折、頬をひたひた叩いては遠のく午後。
ゆらりゆらり、遊ぶように穏やかな波間、歌を紡ぐ、君が微笑んだ。
ひたすらひたすら幸せそうに。
ひたすらひたすら無償の愛を注ぐように。

直射日光は君には乱暴すぎて、
土砂降りの雨は君にはあまりに残酷。
どんより曇りは君には重たすぎて、
吹きすさぶ嵐は君にはあまりに不釣合い。

例えるならそう、水彩画。
どこまでも淡い淡い、幸福な光の粒。

ぶわり、また翻った柔らかなレースカーテンが君の頬を撫で上げ、君はくすぐったげに。ほんの少し困ったように首を竦めて微笑んだ。

一緒がいいね。一緒がいいよ。多分ね。
あの日僕らは戯れを心底本気で成し遂げようと心に決めた。多分ね。くらいの気さくさで。
映画や小説ほど劇的じゃなかったけれど、でも僕らにとってはあの日を境に人生が180度反転したようなもの。
目の前用意された全ては僕らにとってこれ以上ないくらいの最高の玩具だった。

きらめく陽の光も。
さやめく風の音も。
伸ばした手のひら、ぺたり。重なる。
なんでもそう。感じられればそこにいなくたって十分楽しい。
だから一緒がいいね。一緒がいいよ。多分ね。

夢見るように

見たこともない世界を見に行こう。
きっと大丈夫だよと僕は心を込めて、本当にそう思うがまま言って君に手を伸ばした。
だって君はすでにその存在だけで、こんなにも僕を揺さぶる。
僕が知らなかったものを沢山君は知っていて、そしてその上僕にも沢山教えてくれた。
だから大丈夫だよ、きっと大丈夫。
君も僕もまだ見たこともない世界を見に行こう。
一緒に。

伸ばした手のひら、君の思わずと言った風に零れ落ちた笑みと、あたたかい手のひらが重なれば、きっとそうなると信じて手を伸ばした僕はそれだけで救われる。
報われる。
生かされるんだ。

怖いことも、悲しいことも、憎しみあうことも、痛いことも、ない世界ってないのかな。
もしそれが君の言う「見たこともない世界」なのなら、俺は行ってみたい。見てみたい。
君はそう言って少しだけ寂しそうに笑った。

好奇心を最大限に生かそう。僕らは多分、元々はそういう生き物なんだから。
僕は言う。
案ずるより生むが易し。とも言うしね。
君は笑う。

重なった手と手。かちりと組み合わせる指と指。
僕と君はこの手とこの指で一体今までどれほど怖がり、悲しみ、憎しみあい、痛んだことだろう。

「叶うといいね」

まるで叶わぬことを儚むように君は寂しげに、笑った。

一度重ねあったこの手と手、かたく組み合わせた指と指が、この夜が明けるのすら待たずまた離れることを。そしてまた怖がり、悲しみ、憎しみあい、痛むことを僕と君は承知の上で。

だけど。

きっと大丈夫だよと僕は心を込めて、本当にそう思うがまま言う。
そうだね、きっと大丈夫と君も意思の篭った強いまなざしで笑う。

見たこともない世界を見に行こう。
一緒なら大丈夫だよ。

夢見るように、僕と君の世界を見よう。
一緒に。

嘘みたいな本当だ

お前が俺に対して投げかける言葉のどこからどこまでを真実と信じていいのか。
それとも、いっそ全て嘘なんだろうと笑い飛ばし続けてしまえばよかったのか。
あの頃は当然、今になっても分からない。

お前は饒舌だ。
だけど、お前が俺にくれた沢山の言葉の最中に、お前だけの真実がどれだけあった?
手のひらの上、お前がくれた言葉のパーツを並べては、俺はお前のことをまだこれっぽっちしか知らないんだと何度も愕然とする。
次こそは。次こそはと思いながらいつも、お前に直接対面するたびお前の巧みな饒舌さに巻き込まれ、俺の決意なんてあっけなく曖昧になってしまう。
煙に撒かれるのだ。
お前にとって、俺ほど扱いやすい対象なんてきっといない。

毎朝太陽の光が俺の部屋の遮光カーテンの隙間をすり抜けるたび、俺はお前を欲しがり目を覚ます。
毎日あの場所に行けばお前に会える現実も、明日も叶うか分からないから、俺はお前を探して歩くんだ。

お前はまるで真夏の陽炎みたい。
急な坂を登りきった頂上、かんかんに照り付けるアスファルトの上にゆらゆらしている。
俺はお前に会いたいがためだけに、その坂道を毎日踏みしめ息を切らす。
辿りつく頃にはきっと、太陽は傾いていると知っていて尚。

宵闇が俺たちの世界を覆えば、お前は簡単に俺の目に見えなくなってしまうから、俺は飽きもせず毎日焦るんだ。
焦って焦って、お前の影を追う。
お前の、足跡を必死で辿るんだ。

「日暮れが早すぎるんだ」

俺は密閉された蒸し暑い部屋に辟易して、少し焦って窓を開け放ち風を呼び込みながら呟いた。

「夏は日が長いから、これでも遅い方だよ」

何も知らないお前はそう言ってふわりと微笑んだ。
焦った俺の指先が、窓の簡易な鍵すらうまく捕まえられずにカチカチと侘しい音を立てたことを笑ったのかもしれないと少しむっとする。
その笑顔が胡散臭いんだよ、と眉間に皴を寄せればそれはそれ。酷いなぁなんてさほどショックも受けていないお前がまた笑うだけ。

毎晩夢の中だけででも確実にお前に会う方法はないだろうか。なんて、時々俺は思うんだ。
明日またお前と会える確証なんてどこにもないから、会うたびへたり込みそうになるほどに。
陽炎のようなお前はいつか光の粒になって空に還ってしまいそうだから、お前を捕まえることができる方法を知りたい。
切実に、知りたいと思う。

「…虫網とか大きなビニル袋とか?」

俺は小さく独り言を呟く。
だけど俺の思考回路の幼稚さも込みで、いつの間にか俺を俺より理解してしまったお前は、閉じ込められたら死んでしまうかも。と俺を脅して微笑んだ。

「お前はずるすぎるよな」

「そう?どちらかというと君の方が僕よりずっとずるいと思うけど」

お前は何もかも知った上で、何も知らないふり。
じゃあまた明日。という不安定な言葉を俺に投げかけて、お前はまた宵闇の中に溶け消える。
毎朝お前を欲して目を覚まし、必死になってお前を探してこの坂道を登りきった俺のことなんて、まるで全く知らないみたいにするりとあっけなく。
背中越し、ひらひらと振られた手の甲が、俺の瞼の裏に焼きつく。
その残像が完全に消えてしまう前にまた、…明日。があればいい。俺は心の奥底からそう願って目を閉じる。

嘘みたいな本当だ。
嘘だったらいいのに、本当だ。

既視感

「すまない。基礎情報が足りなさ過ぎて、まず自分が何を理解していないのかも分からない」

流水の中に手を浸し、ありふれた柄のタオルで水分を細かく拭き取る。
ドアを開け、後ろに後ず去るようにドアを閉める折、ドアの向こう側、前方に上半身が移る鏡。
そこに移り込む自分の無表情。
鏡に映る自分と目を合わせたまま閉めるドア。

暗転。

視力

見えないものを見ようとするから。
見えるものを見ないようにするから。
見えるはずなのに見なかったりするから。

僕らは自分自身の視力さえ、あまりに信奉しすぎてはいけないんだ。

頭上、空は高く透き通って、その向こう側にひそむ季節風や事象、様々なものを抱え込む。
足元、土は深く積み重なって、その真下に隠れる生命や現実、様々なものを抱え込んでいる。

それら最中に自分が欲しいものが。自分に見合うものがあるかどうかは分からないけれど、欲せたらいい。見合えたらいい。
いつかと思いながら、霞む目を擦る。
あまりに視力の悪い目を、擦る。

笑えてくるよね

初めてそれらを目にした時、そのあまりの完璧なしつらえっぷりに思わず笑ってしまった。
おままごとにこれはあんまりじゃないのか。僕たちがしようとしているのは紛れもなくただのお遊びだと言うのに。
僕たちが探しているのは、僕たちだけに許された、僕たちだけのプレイルームだと言うのに。
言いかけて、笑うだけにしておいた。

そんなこと、ここをしつらえた大人からすれば全く関係ないのだと知っていたから。

目を閉じて目を閉じて。目を、

目を閉じて目を閉じて。

彼はふわりと微笑んでそう言った。

目を閉じて目を閉じて。

彼は僕だけにしか分からないだろう僕の、あまりに切実な悩みを。それでも黙ってにこにこしたまま全部聞き終えてから、ふんわり微笑んでそれだけ言った。
まるで呪文を唱えるように。
まるで優しく言い含めるように。
目を閉じて、それからどうしたらいいのかとか、目を閉じることでどうなるのかとか、そういった説明は一切なされなかった。
だから僕は彼の言う言葉の一切を信じることができず、薄く瞼を細めるだけで閉じてあげなかった。
目を閉じてしまったら見えなくなってしまう。
見えなくなったら、怖いじゃないか。

僕は目を閉じたふりで薄く薄く目を開けたまま。
彼はそれに気づかず満足そうに微笑んでいる。
僕は心の中でひっそり、そんな純朴でいてお馬鹿な彼をちょっとだけ哂った。

目を閉じて目を閉じて。

彼は繰り返す。
僕が素直に目を閉じていると信じ切って、それでも繰り返す。

目を閉じて目を閉じて、…それから、

彼の繰り返しに続きがあるなんて思っていなかった僕は、驚いてひゅ、と息を呑む。
それから?聞き返して目を開けてしまいそうになって、慌てて元の薄目に戻ろうとしてついぎゅうと目を閉じた。

耳を澄まして。深呼吸をして。

彼の言葉は柔らかく。微笑みと同じぬるい体温を帯びて僕の耳を撫でる。

目を閉じて目を閉じて。…目を開けて。

閉じたのに。閉じたのにまた開けろというの。僕はまだ何も分かっていない。彼の言わんとしていることの何一つ、分かっていないのにもう開けろというの。
それとも、目を閉じてと言われてすぐ、本当に目を閉じていれば。彼の言い回しのタイミングに素直に全てを委ねていれば分かったとでもいうの。
僕の切実な悩みが、それで解決するとでもいうの。

「目を開けて」

「いやだ」

僕は首を振る。
先刻まで薄目でごまかしていたのに、今度はぎゅうと目を閉じたまま頑なに開かず首を振る。
これではまるで大人の言うこと全てに反抗する子供のようだと我ながら思うけれど、だけどどうしても彼の言うことそのまま鵜呑みにすることなんてできなかった。

駄目なんだ、彼だけは。
彼の純真さに当てられっぱなしの僕は駄目なんだ。
まるで自分だけがドロドロと汚れて捻くれてしまったみたいに思えてしまうんだもの。
悔しいような、憎々しいような。妬むような。羨むような。

…恋しがるような。

「  」

彼は少し困ったように。だけどふんわりとした微笑みそのまま声に乗せて僕を呼ぶ。
僕はそれに応えることもできずにぎゅうと目を閉じたまま、耳も澄ませず深呼吸もせず、ひたすら首を横に振り続けた。

今の僕にはどうしようもないのだ。
見えないことよりもっと怖いものが、目の前で僕に向かって優しく優しく微笑んでいることに、本当に目を閉じた瞬間気づいてしまったのだから。
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