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もしかして、と顔を上げる時に

片足を持ち上げ前方にもう一足分、進める。という動作や、指先を伸ばし傍らにもう一cm分、近づける。という動作はもしかして。
…もしかして。

頬と口端に力を込め正面からできるだけ、向かい合う。という動作や、首を巡らせ背後を振り返る折僅かに流れる髪を、そっと払う。という動作はもしかして。
…もしかして。

たったそれだけでも十分意義や意味があるのかもしれない。
そう思うと全てがちょっと怖く、ちょっと愉快だ。
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悪癖のメモ

「馬鹿だね」と無理やり皮肉を装って笑うのは、君の癖。

「そうだね」とついつい認めて苦笑するのは、僕の癖。

僕らの間にはいつも笑顔があるけれど、それらがいつだって良質なものとは限らない。
笑えばいいってもんじゃないことくらい、君だって僕だって知ってるけれど。

無意識。

「本当、馬鹿」と苦しそうに一生懸命笑うのは、君の癖。

「うん、ごめん」とついつい謝って苦笑するのは、僕の癖。

そこに他意はなかった

水面に揺れるそれを、確実に捕まえたかっただけだ。
たかが小さな波ひとつにいとも簡単に翻弄されるそれを、一瞬の光の反射だけで見逃してしまいそうなほど微かなそれを、確かなものだと証明したかっただけだ。

小さな欠片ひとつ逃したくないと。
僅かな破片ひとつ諦めたくないと。

ただほんの少し分不相応な願いを持ってしまっただけだ。

全部僕のものになればいいのに。
全部僕の身体の一部になればいいのに。
全部僕の中で溶けてしまえばいいのにと。

そこに、それ以外の意味なんて。意思なんてなかった。

エンドレス・ループ

まるでこのまま永遠に続くかのような、終点の見えぬ螺旋状のラインを指先で辿りながら。

この、ただ辿る、という行為を一体いつまで続ければいいのか。
一体いつまでなら続けていいのか。

終点を見つけ、そこまでで終わりにしたいのか。
それとも終わりなくひたすら辿り続けていたいのか。

途中で放棄したいのか。

分からないまま、辿る。辿る。辿る。
分からないから、辿る。
辿る以外にすることがないから。できることもないから。

辿って辿って辿った先に、終点は本当にあるのだろうか。
辿って辿って辿った先に、永遠は本当にあるのだろうか。

螺旋は続く。
今はまだ。

寂しい雫

その頬を包むこの両手のひらが、まだ土や泥やその他さまざまなもので汚れる前のものだったことに、僕はほんの少しだけ安堵した。
ただ、今よりはマシだという程度の事実が、たったそれだけでも十分な救いになるような気がしたのだ。
少なくとも汚れる前の昔の手のひらなら、まだ君にとって優しくあれるような気がしたのだ。

その儚く柔らかい頬に、今の僕の手で触れることなんてできやしない。
たとえ、その頬を伝う寂しい雫に気づき、それを拭いたいと心の奥底から願ったとしても。

晴天の屋上から

その日は格別、澄み切った清浄な空気の最中を太陽光がきらきらとすり抜け、満遍なく地の表を照らす、最高に心地よい日だった。
真夏のような乱暴さもなく、真冬のような冷徹さもない。
春のような強すぎる膨張の気配も、秋のようなあっけない収縮の気配もなかった。
日本にある四季のどれにもあてはまらなかったけれど、気温、湿度、天気、どれを取っても日本人に一番優しい瞬間だったように思う。

だというのに、私たちは薄暗く狭い階段を必死に昇っていた。
背後から迫り来る憤怒、恨みや妬み、激しい嘆きといった嵐のような恐ろしい感情からひたすら逃げていたのだ。
それに捕まってしまったら、私たちはバラバラになってしまうと思った。
もう二度と会えなくなるほど遠くに引き離されてしまうと思ったのだ。
今にも追いつかれ肩先を掴まれてしまいそうな距離感に怯え、肺いっぱいに酸素を吸い込む余裕もなく階段を駆け上がる。
この階段が途切れたそこには、清浄な空気と太陽光があると知っていた。
そこまで逃げ切れればきっと、恐ろしいものに飲まれたり、引き裂かれ孤独に沈んだりせず済むと思っていたのだ。

屋上へ。

もつれそうな両足、手すりに縋る手のひら、噛みそうになっては上顎に押し付ける舌、視界を遮る前髪を首を振ることで避け、瞬きをする瞬間にすら怯えて走った。
先を行く彼の背中から僅かでも離れてしまわぬよう、捕まってしまわぬよう。

彼の手によって、少し錆びたような荒い音を立ててドアが開けられた。
彼に続いて、敷居を越えたつま先が屋上の色褪せたコンクリートを踏みしめることに成功した。
空から降り注ぐ太陽光は優しく眩く、私たちは目を細め詰めたままだった息を全部吐き出す。
一気に身体から緊張が抜け落ち、その場にへたり込みそうになったが、乱れたままの呼吸を正す前に、私たちの背後未だ追ってくる気配に驚いてコンクリートを蹴った。
ここまでくれば大丈夫だと思ったのに。

私たちは屋上の入り口からできるだけ離れようと端へと逃げた。
そこは他に隠れるような場所も物も、周囲取り囲むようなフェンスすらなかった。
私たちは先刻出てきた入り口から現れ、私たちを捕まえ飲み込もうとするその姿を見極めようと視線を固定した。
薄暗い入り口の向こうの影が、一瞬、濃く揺れた気がして、思わず一歩後ず去る。
と、屋上ギリギリにいた彼が足を踏み外した。
彼の両手は掴む場所を決める余裕もなく空を掻く。咄嗟にそれに手を伸ばし、強く掴んで引っ張った。
しかし、重力に呼ばれる力の方が私の力よりずっと強く、私は彼もろとも落下しそうになる。
だというのに、彼は何かを悟ったかのような穏やかな微笑を浮かべ、一緒に落ちようと私を呼んだ。
瞬間、私の脳裏に蘇ったのは、エレベータや飛行機の落下時、内臓がぶわりと浮くような不快感と恐怖感。
私は咄嗟に彼の腕を掴む手を離した。
彼は私の腕から手を離そうとしなかったけれど、私の顔に明らかな恐怖が滲んでいることを見て取ったのか、微笑んだまま、先刻まで私の手を掴んでいた強さも痛みも嘘みたいに儚く、そっと手を離した。
私はその場に残った。
彼は落下した。

屋上から。

私はへたり込む気力すらなく、そのままその場に立ち尽くした。
先刻まで彼を強く掴んでいた手を下ろすこともできず、落下した彼を下に探すこともできず、澄み切った空気、降り注ぐ太陽光の最中、色褪せたコンクリートの上に立ち尽くした。

『一緒に』

最後に聞いた彼の声が頭の中に木霊した。
それを咄嗟に拒絶してしまった私は、もう二度と彼と落下するチャンスをものにすることができないことを思い知り、呆然とした。
何故、手を離してしまったのだろう。
たかが刹那の不快感と恐怖感などに飲まれ、一緒に。そう言って宥めるよう優しく微笑んでくれた彼をひとり落下させてしまったのだろう。
見殺しにしてしまったのだろう。
あのまま一緒に落下できていたならきっと、私たちはもう逃げなくても良かったはずなのに。
ひとりになることも、彼をひとりにすることもなかったはずなのに。
どうして迷ったりなんかしたんだろう。
迷う理由なんてなかったのに。
ひとり呆然と立ち尽くす。

絶望的なほど最高に心地よい、晴天の屋上にて。

間違わない人

あなたは決して距離感を間違えない人でした。
そのことが、どれほど臆病な私を安堵させたことでしょう。

あなたは「そこにある」ことに関して誰より秀でていました。
そのことが、どれほど弱った私の許しとなったことでしょう。

だけど私はあの日以来、半分外れたあなたが正直少しだけ、怖かった。
元々交差することなどありえなかった分、笑う以外にどうしていいのか分からなかったのです。
擦り切れるまで使い古した表情筋は、いちいち意思を伝達させなくとも自動的に動きました。
しかし、身体は皮肉なほど正直でした。
あなたを前にして、私はあなたに近づくためのほんの一歩分すら進むことができなかったのです。
あなたの周囲に広がる気配が怖かった。
近づくことで、その気配の正体を思い知るのが。そしてその波に当てられるのが怖かったのです。

多分、あなたは私が頑なに隠すもの全て、あの赤子のような透き通った瞳でとっくに見透かしていたのでしょうけれど。

その瞳に私は一体どのように映っていたのでしょうか。
それを知るためには、私もまた、あなたと同じ瞳を手に入れなければならないのでしょう。
しかし、私があなたと同じ美しい瞳を手に入れるには、まだまだ時間が足りなさ過ぎるのです。
それはそれは、途方もなく。

「決定的な違い」から生まれるもの

始めは、ただただ噛み合わない会話へのもどかしさだけだった。
僕と彼との間、どうしたって埋まりきらない「決定的な違い」は、大きく底なしに深い溝となって揺るぎなくそこにあり続けていたから。

僕はその溝を少しでも埋めようと足元にある土を蹴り落としてみたりしていたけれど、どこかで、どんなに頑張ったって決して埋まらないのだと理解してもいた。
それでも僕は、僕の想いの欠片少しでも、彼の心に真っ直ぐ届いてくれたらいいのにと願い続けた。
それは恋や愛という名前の感情と言うよりは、嫉妬や苛立ちに近い、酷く乱暴であり自分勝手なただの衝動だったように思う。

僕が必死に叫ぶ声にならない感情をいくらぶつけたとしても、彼はそのたびへらへらと笑い続けて受け流し、決して真面目に受け取ろうとしない。
僕はそんな彼を弱虫だの卑怯者だの散々罵倒し、そのたびいちいち失望感を味わった。
すぐに視線を外してしまう僕を、微笑みという名の仮面の下、それでも真っ直ぐ見つめ続けていてくれた彼のことなんて、ちっとも知らずに。

彼は同じ場所にいつもいた。
僕が僕を取り囲むありとあらゆるものに簡単に流され翻弄されている間も、彼は頑なに己の立ち位置に両足を押し付け、立っていた。
僕はそのことを知っていたはずだ。
彼は、僕との間にあり続ける溝の向こうから、一歩も動かず僕を見つめてくれていたことを。
僕は知っていたのだ。

どんなことがあろうと起ころうと、彼だけは決してそこからいなくなったりしない。
僕が溝のこちら側に戻ってきさえすれば、必ず彼とまた向かい合える。
ただただ噛み合わない会話にもどかしく思ったとしても、それでも彼に向かって言葉を投げかけることはできる。
何度受け流そうとも、彼は決して僕を拒否したりしなかったのだから。
僕はその疑いようもない事実に嫉妬し苛立ちながら、それでもどこかで安堵し甘えていたのだ。

僕が彼に対して持つのは、恋情や情愛という類の感情ではない。
多分今後も決して、そういった感情を彼に向けることはないだろう。
だけどもしかしたら、と時々思う。

もしかしたら彼が僕に向けて注ぎ続ける当たり障りない微笑みと視線には、そういった感情が含まれていたのかもしれない。と。
僕はその彼の想いを無意識理解していながら、応えることもせず甘えるだけ甘え、利用していたのではないか。と。

彼と過ごした季節よりも、彼と離れてから繰り返した季節の数が増えるたび、僕は溝を挟んで彼と向かい合って立ち尽くした日々を思い出しては、今更オドオドとうろたえる。

始めは本当に、ただただ噛み合わない会話へのもどかしさだけだったのだ。

今頃彼はまだ、あの場所にいるのだろうか。

パステルの光の粒

必死でかき集めた欠片たちを、一体どうやって組み上げてあげれば元に戻せるのか分からなかった。
せめて吹きすさぶ風に撒き散らされてしまわぬよう、必死に胸に抱きしめて蹲ることしかできなかった。

欠片はどれもキラキラと優しくきらめいていた。
欠片はどれも色とりどり自由に輝いて見えた。

それらパステルの光の粒たちは、何ものにも変えがたい僕の唯一だ。

それらをもう二度と元の姿に戻せないとしても、せめてここからなくさぬために。
今の僕に何ができるだろうか。

僕は現状を打破するための決定打をいつまで経っても思いつくことができずに、無様に同じ場所に蹲ったまま。
身じろぎひとつできずに夜明けをひたすら待ち侘びた。

タイトロープの真上

僕らはそれぞれ、個々の人間として、今までひとりで生きてきた。
全てにおいての判断材料は、自分がひとり生きてきた中で手に入れた経験、自分の好みと力だけで選択し受け入れてきた学習から選び出すより他になく、そしてその材料の乏しさに気づくための対比対象すらなかった。
だから、元々持って生まれた性質も、作り上げてきた体質も、それぞれ全く違う僕らが出会えばそれなりにぶつかり合うことくらい当たり前のことだったのだ。
今までだったら、合わないから。の一言で離れることだって簡単にできていたし、縁という名のその糸を簡単に切り離すことにだって躊躇しないで済んでいた。
だけど。
神の悪戯かと思うほどの奇妙な縁の糸は、不意に僕らを繋ぎ合わせ縛り上げた。
その糸は強引でいて頑強。
引き千切ろうと足掻いたその時は、どんなに本気を出しても、どんな道具を使っても切り離せるものではなかった。

しかし、ち、舌打ちして諦めた途端、その糸はゆるり、不安になるほど儚く緩んだ。
僕らはその糸を心の奥底から煩わしく思っていたし、切り捨てられるなら今すぐにでも、といつも思っていたけれど、こうして諦めた途端こんな簡単に弱まるなんて思いもしなかったのだ。
今まで強固にそこにあり、あることが当然のようになった途端、急激に崩れ落ちる地盤の上。
踏みしめる両足の裏から何もなくなる恐怖に、僕らは情けないほど竦みあがった。
怖くて怖くて仕方がなかった。
僕らを繋ぐ糸は鋼よりピアノ線より、この世に存在するどんな頑丈なものより丈夫で、決して千切れることなんてないと思っていたのに。
諦めと許容と愛着を履き違えるほどに僕らは、縁の糸に馴染んでしまっていたのだ。

これが悪夢ならどんなにいいだろうかと僕らは願う。
だけど、夢から覚めたそこが、僕らが出会う前の、ひとり生きてきた人生の地点だったらと思うと、それすら怖いと怯えて戸惑う。

僕らが立ち尽くすここは今や、強固だった地面ではない。
今にも僕らの重みだけで簡単に千切れてしまいそうなほど細く細く。
そして、連綿と遠く遠く続き、この次僕らが両足でもって踏みしめる地面がある岸辺すら霞みも見えないタイトロープの真上なのだ。

共犯者の受け答え

汚いものをそのまま汚く言い表すことも、

汚いものを夢みたいに奇麗に言い表すことも、

奇麗なものをそのまま奇麗に言い表すことも、

奇麗なものを嘘みたいに汚く言い表すことも、

私にとってはたやすいことなのだから。

あなたが望むがまま、その通りに。

あなたはそんな、“あなたに従順な私”を望んでいたのでしょう?
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