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「平穏」と「特別」

君を見つけたあの瞬間から、僕の景色は一変したんだ。

思い通りにいかないことだらけ。
今までずっと自分ひとりの我侭を貫き通してきたってのに。
そうやってでも生きてこれたのに。

僕はイライラ、爪を噛む。

どうしてだ。なんでこうなる。呟きながら、ウロウロフラフラ。
我ながら情けないにもほどがある。
君が特別だから?
何にとって、誰にとって特別であれば、「平穏」を誰より愛する君は君であれるのだろう。
ありのまま。
そのままの君であり続けるに、僕は君にどのように作用する立場にあればいいのだろう。

僕が君を、守るには。

僕が君の、視界を独占するには。

僕が君の、特別になるには。

あの瞬間、僕の景色は一変したんだ。
大げさじゃなく、あの瞬間、今まで見ていた景色をそのまま鵜呑みにしていた僕は、急激に強さを増す鮮やかさに心底驚いて竦んでしまった。
今までので十分楽しかったし、それなりだったのに。
もう君と出会う前に戻るのが怖くて仕方なくなってしまった。

どうしたって思い通りにいかないことだらけ。
だからこそ余計に僕は、君の「特別」になりたがって駄々をこねる。
君を守りたいと無茶を願う。
君を独占したいと。君の特別になりたいと。
僕は君ほど「平穏」を愛することなんてできそうにない。

ねぇ君の。その声で。
他の誰でもない君の、君というだけで十分僕にとって特別な力を秘めたその声で、僕に聞かせてくれませんか。

どんな無謀なことでも、その華奢な腕でもって叶えてしまう魔法のような力はいつか、僕の頭上にもキラキラ、降り注ぐ未来がくるよ、と。

今はとにかく願ってやまない僕の名を、できれば何度も、誰より多く、口にしてください。
君ほど「平穏」を愛せない僕が、誰より何より「平穏」を愛する君に願うことと言ったら。
今はそれだけだっていう、紛れもない「平穏」の日々。
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ギザギザ

可哀相に可哀相に。
切り刻まれたのが過去の夢だけだったら良かったのにね。

一生懸命抗って、喘ぐ呼吸のようにギリギリのところ。
織り上げた縦糸と横糸の目を指先で辿り確認するように。
ただの薄っぺらい一枚の布はそれでも、目を凝らせば一本の細い糸の重なりだけでできているという、その途方のなさに慄く。
例え同じ糸、同じ色をチョイスしていても、織り方ひとつ変えるだけで全く違うものになってしまうことにも。

幾ら織っても重ねても、広げることをしなければそれはただの糸の重なり。
草木を搾って染めたとて、淡いグラデーションを知ることもできない。

今も変わらずひたすら僕と同じものを求め続けているはずなのに。
君はまた、見当違いな方向へと手を伸ばす。

そんなに必死に凍え震える指先を伸ばしたって、そっちに僕の、君へ精一杯伸ばした手はない。

そっちじゃないよ、こっちだよ。
呼ぶ僕の声はまだ、ギザギザのそれを抱く君にはきっと届いていない。

可哀相に可哀相に。
切り刻まれたのが今の世界じゃなければ良かったのにね。

ほどほど

臭いものに蓋をするように。
見たくないものから目を逸らした。
いらないものを縛り上げ、ゴミの日に出した。

人は様々な事柄を容赦なく忘れていかなければ生きてなどいけない生き物だ。
人は持ち合わせる記憶の全てをなくしてしまうと生きてなどいけない生き物だ。

中間地点に爪先立ってバランスを取ることは、どちらかに傾倒し突き詰めることよりもっとずっと難しい。

臭いものに蓋をするように。
聞きたくないことから耳を塞いだ。
捨てられないものを積み上げて、押入れの奥に仕舞った。

泡沫の色を纏うには

真紅にそれを染め抜くには。
きっと強い意思が何より不可欠なのだ。
覚悟にも希望にも似た、諦めが必要なのだ。

漆黒をそれに焼き付けるには。
きっと優しい祈りが何より不可欠なのだ。
融和にも信仰にも似た、反逆が必要なのだ。

何色を選択するにも、その折必ず必要不可欠なものが生じる。
そして必ず犠牲も生じる。
でもだからと言って、選択することをやめるわけにはいかないのは、彼も僕も同じ。

あの時、僕らの足元に転がっていたものが何だったか。
何があろうと忘れたなんて言えないし、何をもってしても忘れたなんて言わせない。
絶対に。
絶対にだ。

僕らはそれぞれ色を選択し、そうすることで多大な犠牲を払って生きてきた。
それら犠牲の上に成り立つ生を、ただひたすらに。

夢は現実を走るためだけにしかなかった。
どこまでも無様で貪欲で滑稽な生。
でもだからと言って、死を想う暇なんてなかったのは、彼も僕も同じだった。

もしかして僕らは誰より何よりずっと、その分幸福だったのかもしれない。
泡沫のような幸福の代償に払った犠牲はいかほどか。
途方もなさすぎて、もはや指折り数えることもできないけれど。

捕食の大木

森の中に、その森の頑なな途方もなさをまさに体現し象徴するような大木があった。
それは深い深い緑の葉を鬱蒼と生い茂らせてそこにあった。
みっしり。
枝は葉で埋め尽くされて、よほど近寄らなければ確認できないほど。
その緑はあまりに濃すぎて光を遮り、まるで影の黒。
ざわざわ風で揺れる様もまた、樹木というより巨大な生き物のようにも見えた。
みっしりと、そこにあった。
実が生る隙もなかった。

風も吹かないのに、葉を抱えすぎた枝が揺れた。
枝というより樹木全体が咆哮するように揺れた。
ごうごう、ぐわり、胸騒ぎのような音だった。
その枝の揺れが悲鳴のように聞こえ、惹かれるような気がしたので、大木に近寄り、目を凝らす。
みっしりと生い茂った黒に近い緑色。
それは全て葉だと思っていたら、実は裸の枝に黒くて深い緑色の光沢を伴った羽を持った羽虫が密集して集っているだけだった。
みっしり。
今にもその樹木を食い尽くさんとするかのように、枝の全てを羽虫が埋めていた。
羽虫の実が、豊作だった。
さらさら、羽が擦れる音がした。

その羽虫の羽があまりに禍々しいほど美しかったので、もう少し大木に近寄り、目を凝らす。
みっしりと枝を埋め尽くした黒に近い深い緑の羽虫。
それは全て羽虫だと思っていたら、カラスより小柄な見たこともない鳥が密集して止まっているだけだった。
みっしり。
鳥たちはざわめき、そのたび重さに耐えかねた枝枝が揺れた。
今にも折れそうなほど、根こそぎ倒れてしまいそうなほど大きく揺れた。
黒い鳥の羽は深い緑色の光沢を伴って、まるで樹木を覆う葉のようにして生っていた。
鳥の実が、豊作だった。
ぎゃあ、と鳥が鳴いた。

その鳥の鳴き声があまりに鋭くきらめいて聞こえたので、もう少し大木に近寄り、目を凝らす。
みっしりと枝を埋め尽くした黒に近い深い緑の鳥。
それは全てが鳥だと思っていたら、実は裸の枝に黒くて緑色の光沢を伴った毛並みをした猫が密集して爪を立てているだけだった。
みっしり。
猫たちはこちらを見下すように目を細め、鼻を鳴らした。
今にも樹木全てを削り尽くしてしまわんとするかのように、全ての枝に猫が生っていた。
猫の実が、豊作だった。

食事の邪魔をするな。
不用意に大木に近づき過ぎた私を、猫が笑った。
どちらの?つい投げかけた質問に、猫はこちらを見下すように目を細め、喉を鳴らした。
こちらが終われば、次はあちら。
一歩後図去りそうになった私を、猫はまた、笑った。
口端から鳥の足がはみ出ていた。
鳥の口端から羽虫の羽がはみ出ていたのを見たし、羽虫の小さな口端から葉の欠片が見えていたので、あぁやっぱり、と思っただけだった。

森の奥にあった大木は、黒に近い深い緑の実を、まるで葉のように生い茂らせてそこにあった。
みっしり。
枝は実で埋め尽くされて、よほど近寄らなければ確認できないほど。
みっしりと、そこにあった。
葉が芽生える隙もなかった。

その身を食べるは、次どちら?

変更線上で見る夢

真夜中には、時計の秒針の音だけで埋め尽くされる刹那がある。
その一瞬、未だ睡眠に陥っていないはずの意識が、勝手に夢を見る夢を見る。
それは、毎夜訪れる刹那のたび、日中沢山の音の洪水に飲まれ簡単に忘れてしまう夢の続きを思い出させる。
閉じようと震える瞼をこじ開けるようにして。

真夜中には、自分が目を閉じているのか開けているのか分からなくなる刹那がある。
真っ暗闇の中をじっと見つめるようにして、夢を見る夢を見る。
それはちゃんと己を飲み込む暗闇に見えているのか、それとも眼球の内側に現れるだけの妄想を見ているのか、分からない。
毎朝目覚めればすっかり忘れ、毎夜暗闇の中で思い出す。

毎夜毎夜、思い出す。
刹那に堕ちてようやく、思い出す。

思い出した夢は飽きもせず、鼻で笑ってしまいそうになるくらい忠実に、昨夜の刹那の続きを紡ぎ出す。
朝になれば簡単に忘れてしまうというのに。
夜にまた思い出せる保証などどこにもないというのに。

それは曖昧でいてどこか鮮明な映像。
それは幸福でいてどこか悲しい物語。
刹那を上手に重ねたら、いつか完結するのだろうか。
それとも延々、終わりなく続くのだろうか。

毎夜、全てが闇に沈み込む刹那。
夢を見る夢を見る。

双子ごっこ

もういいかい。
まだだよ。
もういいかい。
まだだよ。

一体いつまで待てばいい?
僕はもう、隠れ鬼なんてこりごりだよ。
待って待って、待つだけで。
君はちっとも、「もういいよ」って笑ってくれやしないんだ。
君は今、一体どこに隠れてる?
僕の視界から身を隠し、どこで息を潜めているの。
せめて笑ってくれてれば良かったのに。
せめて怯えないでいてくれてれば良かったのに。

もういいよ。そう言って笑って。
僕に、君を探し当てさせて。
どんなに難しい場所に隠れてたって、僕はきっと君を見つけてあげられるのに。

かくれんぼはもうお終い。
おいで僕の片割れ。
僕のアナザーサイド。
僕のダークサイド。
出ておいで。
ひとり両目を塞ぎ、しゃがみ込んだまま君の「もういいよ」を待ち続け、「もういいかい」しか言えなかった僕の叫びは。
ちゃんと君に届くだろうか。
届く範囲に、君はいてくれているだろうか。

愛しい臆病な暗闇さん。
もう十分君は僕から離れた。
僕をひとり待たせた時間分、君はひとり息を殺した。
随分長い間、たったひとりでさぞかし寂しかったことでしょう。
もう出ておいで。
僕のそばに来て。

君が、寂しくて寂しくて死んでしまいそうになる前に。
僕が、寂しくて寂しくて死んでしまうそうになる前に。

僕が君を許しましょう。
許しを求めて孤独に震え、息を殺し続けた君を。
僕だけが君を呼び請い求め、見つけ出して抱いてあげる。
もう怖がらなくってもいいんだよ。
もうひとりを怯えなくてもいい。
君が振り払ったこの手の痛みは未だに忘れられないけれど、それを憎めるのも許せるのも、僕しかいないと分かっているでしょう。
ひとり凍える君がぬくもりに救われるには、熱くてたまらない僕の体温と半分こすればいいことくらい、君だって分かっているはずだよ。
そうすることで僕も救われることだって。

もういいかい。
まだだよ。
もういいかい。
まだだよ。

…もう、いいよ。
だから笑って。見つけてあげよう。
双子ごっこの続きといこう。

共食い

これではまるで、共倒れだ。

く、喉奥痛むような吐息が零れ落ちる。
それは見下ろした地の表、シトシトと濡れた感触のまま淡くぶつかり弾けていった。



全てを投げ出し走り寄ろうとしたのだろう、その足が。
一瞬の躊躇を見せたことを、俺は見逃せなかった。
その全てを欲してその名を呼ぶぼうとした喉をきつく戒め、伸ばした手のひらでそれを制した。
目の前立ち尽くすそれは、誰より何より、傷ついた顔をしてその場に留まることを余儀なくされた。
途方に暮れた迷子の目が、俺だけを映していた。

それは酷く懐かしい、瞳の色だった。

その懐かしさは、ひたすら遠い過去に埋没させていたあらゆるものを容赦なく眼前に抉り出し、光の下に晒してしまった痛みと同等。
あのまま胸の奥深く眠らせていた方が、もしかしたら互いにとって幸福な唯一だったのではないのか。と、思い出してしまった相手を。そして思い出させてしまった己を詰りたくなるほどの、ただその場に立ち尽くすことすら難しくする、激痛と同等のものだった。

押し留めることしかできない手のひら。
置き去りにすることしかできなかったつま先。
向けることしかできなかった背中。
逸らすことしかできないこの目で、俺は、何度それを突き放し、傷つけるのだろうか。

過去の罪を問い詰められ、責められても仕方がなかったはずなのに。
それはどこまでも、俺に対して謝罪の言葉を口にするだけだった。
遠い過去、ひとりにならないでと懇願する声は、ひたすら俺を呼び続けていた。
呼ばれているのは分かっていた。
それがどれほど切実なものだったのかも。
けれど俺は、両耳を塞ぐことでその声を捨て、唇を噛み締めることで涙をも捨てた。
完全に、全てを捨てた。

…はずだったのに。

それを想って離れた俺と、俺を想って添いたがるそれ。
懐かしい痛みを抱いて、ただ、必死に立ち尽くす。
伸ばしたがる手を拳に。呼びたがる喉を戒めて。ただ立つ俺が。
途方に暮れ、そこに留まることしかできなくされたそれの目に、一体どのように映って見えているのだろうか。

俺は一体何度、眼前のそれを捨てればいいのだろう。
それは一体何度、目前の俺に捨てられればいいのだろう。
何度繰り返せば俺たちは。
どれほど傷つけ合えば、どれほどのものを犠牲にすれば、俺たちは。
ささやかで小さなはずのたったひとつの願いを、叶えることができるのだろうか。

…こんなにも。
こんなにも、気が遠くなるほど長く願い続ける、たったひとつの願いを。
ひたすら抱いているだけなのに。
どうして俺たちは添えないのだろうか。
ただ、

「…ただ、一緒に生きたかっただけなのに」

ぽつり、口端零れ落ちた言霊を、おずおず拾い上げてしまったそれが、不安げにこちらを見つめる。

『…  ?…泣いてるの?』

誰より何より傷つき孤独に生きたそれ。
なのに、俺の孤独を嘆き呼ぶ。
何度俺に捨てられようとも、傷つけられようとも。
頬を伝うはずもない涙の雫を視る目を持ったそれは、俺の手のひらに制された場所で、激痛すら抱き込んで立ち尽くす。
制した俺の手がどれほど痛むか、俺たちが抱き込む痛みが似すぎているせいで理解できてしまう、悲しみに歪んだ瞳のままで。

そして俺はまた、それに首を振り背を向ける。

『待って!ひとりにならないで!』

あの時と同じ、悲痛な叫びが呼ぶ声を置き去りに。



これではまるで、共食いだ。

ふ、嘲笑のような吐息が零れ落ちる。
それは両脇に投げ出した拳の表、カサカサと乾いた感触のまま脆く砕けて散っていった。
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