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魔法の3つの数字

数字だけの組み合わせで、成立するならそれもいい。
その数を選ぶ時折の感情の揺れなんて、全部無視してくれる機械的なものならば尚更だ。

絶対的にかち合わない視線と視線。
その理由は、互いに背中を預けているから。
重ねようともがく手と手。
その理由は、互いの想いを知りたがるから。

揺れるのは、視線だけでも、手だけでもないから。

数を数えましょう、君のために。
数を重ねましょう、僕のために。

互いにカウントを繰り返すその唇は、どれほど繰り返せば揃えることができるようになるだろうか。

3つの魔法の数字を当てましょう。
なぞなぞでも、クイズでもない。
本当は、それほど難しい問題でもない。
正解は、きっと互いの口から零れ落ちたそれ。

無機質な羅列だけで、成立するならそれでもよかった。
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断片的な記憶

荒い舗装しかされていない、でこぼこの坂道。
剥げた部分は乾いた土と小石がむき出しだった。

それでも行きはいいものだ。
自転車に跨って、ペダルから両足を離し、前へ真っ直ぐ突き出していればそれでいい。
ハンドルを握り締め、いつでもブレーキが踏めるよう。

下る下る坂道のずっと向こう。
白くけぶった青空と、少しばかり滲むような雲。
お天気良好。

滑るように下る自転車は二台。

一台は正面からぶつかる風を心地よく引き裂き、もう一台はこれから下る先にあるモヤモヤにけぶっている。

「どうして何も言わないの」

彼女は泣きそうな顔をしてこちらを見やった。

「何も言うことがないからね」

僕は真実そう思った通りに口にした。

荒い舗装しかされていない、でこぼこの坂道を下る。
時折ハンドルを取られそうになるし、お尻が痛かったりもするけれど。
こんな情景もまた、知らないなら知らないで。知ってるなら知ってるでいいものだと思った。

路の脇に生い茂る草木が、二台の自転車が疾走することで巻き起こる風にざわりざわざわと騒ぎ立てた。

「あなたは、全部ちゃんと分かってる」

言葉はざわめきに紛れて、それでも多分、彼女の耳に届いただろう。

下る下る坂道。
行きはいいものだ。
帰りはふたりヒィフゥ息を乱しながら、押して昇らなければならないのだから。

多分、毎日毎日、飽き足らず。

とある生き物の独白

他の者にとって毒でしかないそれを口に含むことで、競争から離れることに成功した生き物は思う。

なんでヒトは雑食なんだろう。
ユーカリの葉だけあればそれだけで生きていけるのに。
どうしてわざわざ他の者たちと食料を同じくするのだろう。
それも、肉食とも、草食とも鬩ぎあわなければ手に入れられない雑食に。

何故全て口に含みたがるんだろう。
自分の物にしたがるんだろう。

自分だけの物には決してなれないものばかり。

広大な孤島に取り残されることで、あらゆる混雑から免れることに成功した生き物は思う。

なんでヒトは無駄に群れ、無機質な物を作るのだろう。
樹木の間、手と足で移動できる範囲さえあればそれだけで生きていけるのに。
どうしてわざわざ自分を傷つけることを繰り返すのだろう。
それも、時々自らの。そして他の命すら脅かすほど危険なこと。

何故物ばかり作るんだろう。
自ら独りでは生きていきにくくするのだろう。

わざと空けた穴は決して埋まらないものばかり。

柔らかな体内に子供を抱き、大切に育てることで命を繋ぐことに成功した生き物は思う。

そうか。
ヒトは欲張りで空っぽで寂しがりなんだな。
ユーカリだけじゃ満足できず、空洞を抱えたまんま。
何より、生まれ出た後、体内に抱かれなかった寒さに凍えてしまうんだ。

…そうか。

ある時ヒトが自分を見つけ、自分を抱き、自分に名をつけるのを見ていた生き物は思った。

ヒトは乱暴で自己中心的で自分勝手な馬鹿ばかり。
だけど、その手がどうも温かいのが不思議でならない。

あなたのお好きなように

「あなたのお好きなように」と強気に笑う夢を見た。

本当はさほど余裕なんてなかったけれど、夢の中の自分はどこまでも自信に満ちた、相手を見透かすような目をして笑っていた。
相手がほくそ笑もうが戸惑おうが、ちっとも関係なさげに振舞う夢だった。

「あなたのお好きなように」と相手に自由を贈呈する夢を見た。

主導権が自分にあるように見せかけて本当は相手にあることを知っていたけれど、そんなの欠片も見せないように笑っていた。
自分で決められなかった道を相手の判断のみに全て委ねる夢だった。

何より一番、卑怯な夢だった。

切り落とした爪の欠片

ぷちん、ぱちん、

小気味いい乾いた音を立てて、爪きりで爪を切る。
ゴミ箱の上。
時々勢い余って飛んでしまう欠片を指の腹で捕まえては、他の爪の欠片と同じ場所に入れてやりながら。
爪も、燃えるゴミなのだろうと思いながら。
たんぱく質が燃える独特の匂いを思い出しながら。

ぷちん、ぱちん、

爪きりで爪を切る。

一度手の爪全てをある程度切り落としておいてから、荒々しいそこに適度にヤスリをかけて滑らかさを探す。
ざらざら、ぼこぼこしたそこに、指の腹で触れて確認しながら。
欠片にすらならない細かな粉になった爪だったものを、ゴミ箱に払い落とす。

そうやって、適度に滑らかさを見つけられるようになった指先を、光にかざして眺める。
眺め、気が済んだらおろす。
おろした手が行き場をなくしたら、座ったままの上体を支えるように手をついて、振り返る。
背後、何も知らないで暢気に眠りこける人を振り返る。

すぅすぅ寝息が聞こえたら、聞く、という行為を忘れていた耳が、それを思い出してしまったら、ついその頬に触れたくなってしまうけれど。
未だぎこちない滑らかさしかない爪で触れたら傷つけてしまいそうで怖いから、今は耐えて紅茶を淹れよう。
あたたかい、ベルガモットが優しい、穏やかなアールグレイでも。

丁寧さを忘れた指先から、切り離された爪の欠片。
一欠片も残さず全て、いつか燃やされると知っていて尚、それでもゴミ箱で寝息を立てるのだろうか。
背後、何も知らないで平和そうに眠りこける人のように、すぅすぅ、聞いてるこっちが切なくなるような寝息を立てて。

よるべない肩甲骨

『毎晩、明日への希望を抱くことで次の絶望が約束されることが、怖いんだ』

どこまでもよるべない君の、肩甲骨がそう言ったのを。
ぼんやり、寝起きみたいな霧がかった脳裏、聞いた気がした。

それはどこまでも孤独感ばかりで途方もなくて、可哀相に。なんて簡素で無慈悲な言葉を君と、自分にひっそり呟くしかなくなってしまう。
可哀相に。なんて言葉、僕も君も欲しがってなんかなくて、むしろ不快でしかないことも分かっていて尚だ。
そう言うと決まって君は、骨が喋るわけないじゃないか。と笑う。
俺はそんなこと一言も言ってないよ。と。

言葉はいつも僕らを呼んで、そのこと自体ちっとも罪に問われないことのように簡単に、当然のように僕らを裏切る。
手を伸ばして捕まえたかと思えばすぐに指の隙間をするりと逃れ、僕らが呆然としている間に舌なんか出してはどこかへ行ってしまう。
何度も何度も、僕らは言葉を信じ、疑い、愛して憎しみを募らせる。
僕らは言葉を愛しているだけではない。
同時に、これ以上ないくらい、憎んでもいるのだ。

『愛は憎しみに変わりやすいと言ったのは、誰だっけかな』

どこまでもよるべない君の、頚骨がそう言ったのを。
ありきたりだなぁ、なんて思いながら聞いた気がした。

違うよ、僕らが言う言葉への愛と憎しみは、元々あった愛が憎しみに変化したのではなく、両者が奇跡的なほど同じ分量で元々体内に存在していただけだよ。と教えてあげたくなる。
そう言うと決まって君は、何の話をしてるんだ。と笑う。
俺は何も言ってないよ。また骨の話?と。
俺の骨は俺の知らないところで、俺の思いもしないことを勝手にお前にあれこれ言ってるんだな。男にしてはお喋りが過ぎるから、どうにかその口、塞ぐ手立てはないだろうか。なんて、君はふざけて笑うのだ。
そういうことにしておきましょう。
僕は淡々と答える。

『…ふん。臆病者め。そんなんだから言葉にすら逃げられるんだ。吟味して胸に抱く暇も与えてもらえずに』

どこまでもよるべない君の、大腿骨が僕らを鼻で笑ったような気がした。

結局一番手に入れたい言葉はどれほど足掻いても手に入らないのだと、何より誰より言葉を信じ疑い、愛し憎しむ僕らは、元々知っていただけだった。
そしてだからこそ、孤独感ばかりでも尚、僕らはいつまでもいつまでも足掻くのだということも。

胸の真ん中、奥の方

どくどく脈打つそれは、自分にとってただうるさいだけで、今更何の証明になるのか分からなかった。
どくりどくりと内部で騒ぐだけの証なんて、いらなかったのに。
爪を立てて捕まえて、今すぐ引きずり出して床に叩き付けたいのに。
踏みにじってやりたいくらいなのに。

…憎んで、いたのに。

何を?誰を。

対象なんて、何でも、誰でもよかった。
いつしか混入してしまった怖がりな粒子をごかませるならそれで。

空いた場所を埋められるのが怖かった。
いつかまた空っぽになるのが、何より怖かったから。

満ち満ちているくせに空っぽなそれ。
満ち満ちたくせに空っぽになるそれ。

どくどく、どくり。

どこにある?

胸の真ん中、奥の方。

梅の花に似た、

抱いた身体はどこまでも温かかったのを覚えている。
艶やかなそれはぎこちなく撫でる手のひらに優しいだけで、その、ぴたりと触れ合った手と肌の間には、責める言われも、責められる言われも、何もなかった。
無邪気な喜びに。
今にも溢れ返りそうなほど全身に。頭の先からつま先までみっしりと満ちた生命力に。
それと同じくらいの、希望に。
暗い影なんて欠片も近寄れなかった。…はずだった。

日向の匂いと、鼻先擽るような乾いた土の匂い。
瑞々しい草木の青臭さと、風が運ぶ豊かな水の気配。
それらにくるまれて眠り、小鳥の囀りにまどろみから目覚める日々。
それは愛しいほどに、残酷なほどに、あまりに短い日々だったけれど。
幸せだったと、信じていたい。

せめて君をあの場所に、連れて帰ってあげられたら良かったね。

今、君はどこで何を待っているのだろう。
今、君の目には何が見えているのだろう。

君は無口だったけれど、いつか僕に君の居場所を知らせてくれるだろうか。
僕に迎えに行かせてくれるだろうか。
それとも、僕を迎えに来てくれるのだろうか。
犬のように大人しくお座りして待っていればいつか、君は、僕を迎えにきてくれるのだろうか。
何度も何度も、長く君を待たせた分、今度は僕が待てばいいのだろうか。

短すぎた思い出の中、それでも思い出すのは。
キラキラ初春の梅の花に似た、君のぬくもりばかりだよ。

怖いものの数

子供の頃怖かったものが、怖くなくなっていくのと同時に、大人になればなるほど、違う種類の怖いものが増えていく。
気づけば、子供の頃怖かったものよりも、大人になって怖くなったものの数の方が圧倒的に多い。
皮肉なものだね。

思っているよりずっと、大人とは臆病な生き物だ。

どんなに目を凝らしても見えないものは、正しく目を閉じ視るしかない。

正しく目を閉じる。

正しく。

正しく。

どんなに耳を澄ませても聞こえないものは、正しく耳を塞ぎ聴くしかない。

正しく耳を塞ぐ。

正しく。

正しく。

見れども視えず、聞けども聴けぬものたちは、思っているよりずっと沢山、周囲に散乱しているのだろう。

あっけないほどすぐそばに、落ちているのだろう。

だけどつい口端から溜め息が零れ落ちてしまうのは、見るべき、聞くべきそれを捕まえられないからだ。

それの正しい場所が、見つからないのだ。
それの正しい証明が、聞こえないのだ。

焦れば焦るほど、そもそもの“正しさ”というものの定義が分からなくなってしまうのだ。

正しく。

正しく。

…正しく?

目を開くこと、手探ること。

世界は「無駄」なものばかりで構築されている。

その雑多な「無駄」の中で、それぞれがどこまでも自分勝手に、必要、不必要といちいち意味づけして、選択していくしかない。
だけどその人にとってどれほど必要、と名づけたものでも、他から見ればただの「無駄」だったりするし、その逆もしかり。

全部を見ようと、全部を知ろうと両目を開いてしまったら、溢れ返った「無駄」が邪魔をして、見たかった、知りたかったものを見つけられなくなってしまう時がある。
ひとつ、見つけられればそれでよかったのに。
そう嘆くことになる。
だから、欲張ることそのものが悪いことではないけれど、「ひとつ」だけは絶対にうやむやにしてはいけない。
絶対に。

そう、知ったのは。
実はそれほど最近のことではなかったはずなのだけれど。

朝に君を奪われる。

「…都合がいいんだな」
僅か苦く笑った相手に対して、
「そうだよ。知らなかった?」
どこまでも強気に笑い返すことに。
無意識、できるだけ相手より自分が優位に立とうとすることに、縋っているつもりはないのだけれど。

大したことはないと思ってる。
それは言うほど問題ではないのだろうと。
もっと時間と脳みそを使わないといけないことは、他に沢山あると思ってる。
だから、今はさほど深刻なものとして考える必要なんてないんだと。
…そう、自分に言い聞かせていることにも気づかないふりをする。

冬の夜風はどこまでも遠く透き通って、痛いほど冷たい。
全部凍らせて地面に釘付けにするみたいに、何もないように“見せかける”。
塗り潰したような、こってりと濃い漆黒の中。
星すら伴わずに独り怖いくらいくっきりと浮かび上がる月だって、もしかしたらまやかしなんじゃないかって、思ってしまうくらい。
…そのくらい、奇麗、ってだけなんだろうけど。

君と毛布にくるまればきっと、全部忘れて安心して眠れるのだろうと思う。
だけど眠ってしまえばいつか朝がきてしまうことを知っている僕は、素直にそのあたたかいだけの毛布にくるまれることを躊躇してしまう。
朝になれば、君は僕だけのものではなくなることを、知っている僕は。

どうか朝がきませんように。
そんな馬鹿げた願いを空の中央から無情にも傾き始めた月に願ったって、叶わないことも知っているけれど。

朝が君を僕から奪う。
いつもいつも、非情なまでに、容赦なく。

朝なんてこなきゃいいのに。
眠ったら朝がきてしまうのなら、眠らなきゃいいのかな。
なら、僕は君と毛布にくるまれるわけにはいかない。
そこにくるまれてしまったら、僕は何もかも忘れて安心して目を閉じてしまうから。
だけど、どんなに頑張って起きてたって朝はくる。
毛布にくるまれようがくるまれなかろうが、それでも朝はきて、僕から君を奪う。

ぐるぐると頭の中を駆け巡る、我ながら子供地味た思考。
いとも簡単に、どうしたらいいのか分からなくなってしまうんだ。
どうやったら君を奪われないようにすればいいかなんて、夜の闇に紛れてしまうことしかできない僕には分からないんだ。

「…寒い」
ぽつり、零した僕の言葉は白く揺れて、声に感情なんて込められない僕の不器用さを補足してくれた。
「  」
君が僕の名前を呼び、躊躇し続けた毛布の中に僕を巻き込んでしまった。
相変わらずの有無を言わせない強引さに、僕はいつもこうして負けてしまう。
「次は、一緒に星空を見に行こう」
君はなんでもないようにそう言って笑った。
「月見草が見たい」
毛布の中、もごもご、僕は言う。
「それは季節が違うな。…あぁ、じゃあ月見草の季節にも、こうして一緒に出かけよう」
君は簡単に約束をする。

うそつき。

僕は内心毒づいた。
月見草なんて植物、本当はどこにもないのに。それを知ってて君は嘘の約束を簡単にしてくれる。
だけど内心毒づくだけで何も言わない僕に、君は僅か苦く笑った。

「…都合がいいんだな」
「そうだよ。知らなかった?」

甘いだけの嘘で塗り固めた約束でも、君を独占できるなら僕は、いくらでも、と思う。
それほど深刻さもなく、よくも考えずにさらりと。

「…もうすぐ夜明けだ」

ぽつり、君が言う。
大したこともなさげに、君の声は月以外何もない夜空に溶けていった。
ふわり、白く。
暁を呼び込む強さを伴って。

だから朝なんて嫌いなんだ。
僕は光を求めながらそれでも、朝を厭う。

僕から君を奪う朝を。
あまりに君に似た、憎みたいほど愛しい朝を。
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