彼と微塵も似ていないあなたで良かった、と心底思う。
少しでも彼の面影を残されていたら、きっとこんなに平静でいられなかった。
徹底的に彼の記憶を抹消してくれて良かった、と心底思う。
欠片でも彼の思い出を残されていたら、きっとこんなに笑っていられなかった。
あまりに残酷だと嘆きそうになるほど、完璧に彼の全てを覆い隠し、切り離し、
…もしかしたらもう、全て捨てて忘れてしまっているのかもしれない、と思うほど。
全く違う世界に生きるあなたで良かった、と心底思った。
そうでなければきっと、身動きひとつできないまま立ち尽くすところだった。
忘れないで、捨てないで。
痛まないで、だけど腐らせないで。
そう心底懇願していた長く辛かった時期は、今思えば一瞬のできことだったのかもしれない。
ものすごく最近のことのようで、ものすごく昔のことのようだと思う。
幻のようなリアリティ。
誰の代わりも、誰の真似もしなくていいから、ただそこにいてください。
もう手は伸ばさない。
優しいあなたがうっかり掴んで引いてしまわないよう、決してこの手は伸ばさないから。
もう、誰かのお荷物になるのはごめんなのだ。
あたたかな腕に抱かれ守られる、眩暈にも似た幸福感と、切なく愛しいばかりの罪悪感はもう、十分この胸にある。
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