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あるダムのお話。

人の立ち入らぬある山深いところに、深い深い谷底があって。
そこには、その谷底の深さに似合わぬ小さな小川が流れていた。
さらさらと何に阻まれるでもなく流れる水はさほど多いものでもなく、ただ、淡々と川上から川下へと流れていくだけ。
そこに、その小さな小川のように小さな少年がひとり、立っている。
少年は近くで拾ってきた、細くて頼りない棒切れで水面を叩いてみたり、水の中に浸してみたり。
特に何をするでもなく、小川のそばにいた。

いつしか少年は、その小川がただただ流れていくことを厭い始める。
このまま流しっぱなしにしていていいものか。
際限なく川上から流れてくる水を、そのまま川下へ見逃し続けていいものか。
幸い、量はそれほどでもない。
なんとでもなる。
少年は周辺から小石や木の枝、枯れ草などをかき集め、小川を堰き止め始めた。
しかし川上から流れてくる水は、その僅かな量は変わらぬも、枯れることはない。
少年が簡素につくったダムなど、すぐに水は溢れてしまい、溜まった水が壊してしまう。

少年はダムが壊されるたび、今まで以上に頑丈なダムを作ろうとする。
小石では意味が無い。もっと大きな石で。
枯れ草だけでは弱い。石の間に土も詰めよう。
始めは小川の流れを乱すだけだった簡素なダムは、いつしか小川を完全に堰き止め、それは「ダム」と呼ぶにふさわしい姿になり始める。

少しずつ溜め込む水の量は増え、ダムの形も強固なものになっていく。
ダムが成長するにしたがって少年もまた成長し、いつしかそれを繰り返して大人になっていった。
少年だった彼はダムから一時も目を離さず、深い深い谷底を水とそれを堰き止めるダムで埋めた。

彼はそれでもダムのそばから離れない。
じりじりと積み上げ時間をかけてたったひとりで作り上げたダムは、上へ行くほど新しく、下の基盤は子供の頃に作ったもの。
どれほど頑丈に作ったものでも、時が経てば当然のように老朽化もしてくる。
ダムの壁には少しの亀裂も少しの歪みも許されない。
いつの間にか谷を沈めるほど溜まった水は、僅かな緩みから簡単に漏れ出し、一度そうなればそれをきっかけにダム全てが決壊してしまう恐れがある。
彼は毎日ダムのそばで見張る。
少しの亀裂を発見するたび、それを修理する。
そして他の場所に亀裂がないかを調べ、見つけ次第修理する。

そうしている間にも、川上から流れてくる水の量は止まらない。
時折、大雨が降った夜などは当然増水する。
そういう時は、彼は決まって夜通しダムのそばで見張った。
少しの亀裂も許されない。
もはやこのダムが決壊する時は、彼は己もろとも壊れることを知っていた。

幼い頃、自分はどうしてあの緩やかだった小川を堰き止めようとしたのだろう。
彼はふと思う。
あの時、そのまま流れるがままを眺めていれば、今これほどまでにダムに己を縛り付けなくてもよかったのに、と。
何故緩やかな流れを、許せないと思ったのだろう。
これほどまでに堰き止め溜まりに溜まった水は恐ろしく、あの清らかな流れが嘘だったように深く濁り、淀んでしまった。
水はひとつところに止まれば淀む。そんなことも知らなかった己が憎いとすら。
この汚水を流すわけにはいかない。
今更あの小川になど戻れない。

彼は僅かな亀裂の入った箇所を修理して回る。
このまま、決壊してしまえばいい。とどこかで思っている自分と戦いながら、それでも彼はダムを守る。
守る理由はただひとつ。
幼い頃からこのダムに溜め込んだ、己という名の汚水ごと、己が決壊せんがため。
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yearn

不意に後から後から降り積もるような恋しさに息を詰まらせることも。
息の根が止まるかのように、次々に忘れていくことも。
慣れて何も感じなくなっていくことも。
遠くなる感覚に怯えて無様に爪を立て縋ることも。
こうして必死に形無きものとして残すことも。
声を出して泣く方法がわからなくなってしまったことも。
慈しむこと、愛すること、僕はもう少しできるだろうか。
ねぇ。

決定的に変わっていく。
時は無常に淡々と流れ、変わらないと思っていたものも全部、変えていく。
このままずっとと、そんなどこか子供地味た甘い考えでもって信じていたものから少しずつ。
そして、劇的に変わっていく。
怖いよ。
眠って眠って、そんな夢を見て目が覚める。
子供の頃は、人はそうやって生きていくんだと思ってた。

頭と心が、離れてしまった。
これが大人になるということだとすれば、なんて虚しいことだろう。
いつだって。
こいねがうは、「君の言霊」。

それは長い、長いもので

夢を見た。
それは長い、長い夢だったように思う。
目が覚めた途端、つい先刻まで見ていた夢の内容をすっかり忘れてしまったけれど、なんとなく。
ゆわゆわ揺れる、君の柔らかな黒髪を見ていたような気がした。
太陽などの自然光ではなく、人工的に作られた照明の光に、君の艶やかな黒髪がてらてらと光って見えて。
なんとなく、見とれるでもなく見入るでもなく、なんとなく、見ていたような気がした。
手を伸ばしただけでは届かないけれど、一、二歩踏み出して伸ばせば届くかもしれない、そのくらいの微妙な距離感で、君を。
俯きがちに、僕ではないどこか遠くへ思いを馳せる君を、なんとなく、見ていたような。
嬉しくも悲しくも楽しくも苦しくもない、凪のような静かな空気感と。
願いも祈りもない、濃霧の夜明けのようなけぶった己の思考と。
ただ、君の黒髪が小さく揺れるのを、見ていたような。

それは長い、長い夢だったように思う。
目が覚めた途端、つい先刻まで見ていた夢の内容をすっかり忘れてしまったけれど、なんとなく。
こちらを一切見ようとしない、少し俯きがちな黒髪をただ、見ていたような気がする。
手を伸ばしただけでは届かないけれど、一、二歩踏み出して伸ばせば届くかもしれない、そのくらいの微妙な距離感で、
…あれは、君だったのかな。

失せ物

そう、全部自分でしたこと。
自分で選び、自分で抱きしめ、自分で投げ出し、自分で壊したもの。
そう、誰かが自分に断りなく勝手にしたことではない。
全て、自分でしたことだ。
探し拾いかき集め巻き込んで、大切に大切に。
それをうっかりどこかで落としたのもまた、自分の意思。
それならば、落とした場所へ舞い戻って探し、また拾うか、先へ進んで以前と同じものを探すか、その代わりになる新しいものを探すかするしかないでしょう。

無様に地面に這い蹲ってでも、探しましょう。
見つかるまで。
まだ、止まるわけにはいきません。

ストレイ

僕は今、何年何月何日、何時何分の、どこにいる?

僕は今、何を。

小包と一緒に

精一杯の全てでもって、包み込んであげましょう。
この手は狭くて頼りない。
年々力なくやせ細り、今や骨と皮だけみたい。
だけど。
それでもできるだけの精一杯でもって、包み込んであげましょう。

精一杯の全てでもって、差し出せるものを集めてあげましょう。
この手は狭くて頼りない。
年々力なく衰え弱り、今や骨と皮だけみたい。
だけど。
それでも精一杯ぎゅうぎゅうに詰め込んで、全部集めて差し出しましょう。

両方全部でも、こんな手のひらじゃ入りきらないことは元より承知の上。
それどころか本当は、何一つ、何も持てないかもしれない。
それでも精一杯の全てでもって、包み込みたい。
それでも精一杯の全てでもって、差し出したい。
この手はどこまでも狭くて頼りないけれど。
それでも精一杯の全てでもって。

そう、もしもあなたが望んでくれるなら、いくらでも。
そう、僕が望むだけ、全部。

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名ばかりの心ばかり

私はよく、逃げる夢を見る。
殺されそうになって逃げることも、誰かに怯えて逃げることも多々だが、何より明確に多いのは、何に対して、誰に対しての恐怖かもわからず、ただただ逃げている夢だ。
目が覚めて思い出せるだけ思い出したとしても、実際の内容は逃げるほどでもなかったりする。
なのに夢の中の私は、今にも捕まって殺されてしまうと思うくらい、酷く怯えて息を切らし、必死で逃げている。
心臓はこんな時にだけその存在している場所を主張して、肺は役立たず。
もつれる足も、空を掻く無様な手も。
何に対してこんなに恐怖を感じているのかも分からず、ただただ怯えて逃げる。
誰かに助けられたり、誰かと逃げていることも多々だが、何より明確に多いのは、たったひとりで逃げていることだ。
時には自分を守るためにそこら辺に落ちていた棒切れで武装することもあるけれど、大概は逃げるだけで必死。
そして逃げて逃げて逃げて、激しく脈打ち息を詰まらせ目が覚めて。
はたと気づくのだ。
誰も何ももう、私を追ってなどいなかったことに。
私は逃げなくても、誰にも何にも捕まらなかったことに。

似非昔話「白と黒」

昔話をしてあげよう。

昔々、あるところに。
ふたつの大きな山がありました。
正しい名称はありません。
人々はその山があまりに仲良く寄り添うようにしてあるので、片方の広葉樹の多い方を白山、もう片方の針葉樹の多い方を黒山と簡素に名づけ、親しみを込めて呼んでおりました。
それぞれの山の頂上には、互いの山を向かい合うようにして、小さな社が建てられておりました。
両者とても古いもので、誰がいつ頃建てたのかも、もはや定かではありません。
ふもとの人々はその社には大蛇が住み着いていると信じておりました。
白山には目が赤く、透き通るような白い肌をした大蛇。
黒山には目が黒く、虹色に光る青い肌をした大蛇。
誰が見たというわけでもないのに、そう信じられておりました。

互い向かい合うようにして建つ社。
赤い目をした白山の主は、木々の隙間流れるさわやかな風の中、転寝をするのが日課。
黒い目をした黒山の主は、木々の隙間差し込む温かい光の中、日光浴を楽しむのが日課。
両者共互いのこともきちんと知っており、とても仲良しでした。
社を離れるわけにはいかないので互いに行き来することはありませんでしたが、たまに自分の社の上に登り、相手の社をそっと窺うのでした。

隣り合うふたつの山の、山頂に建つ社。
ふたりの大蛇は守り神としてそこから離れられず、互いのことを知っていてもそばに寄り添うことはできません。
赤い目をした白山の主は、この木々を通り抜ける爽やかな風を、どうか黒山の主に感じさせてあげたいと願い。
黒い目をした黒山の主は、この木々の隙間差し込む温かな木漏れ日を、どうか白山の主に浴びてほしいと願う。
住まう山は隣り合っており、互いの存在はわかるというのに、触れ合い会話をすることはかなわないというこの微妙な距離は、ふたりの主をもどかしく思わせるのでした。
しかしふたりは出会うわけにはいきません。
ふもとの人々は、彼らが社を離れれば、何かよくないことが起こると信じていたからです。
ふもとの人々の信じる心から生まれたふたりは、本当に互いが出会うために己の社を離れれば、何かよくないことが起こることを知っていました。

互いの山の特性を、相手にも知って心地よく思ってほしい。
ふたりの主は思いながら、自分の社の上へ登り、互いの様子を窺うのでした。
いつから始まったかわからないけれど、何年も、何十年も、果ては何百年も、そうして変わらず。

昔々、あるところに。
ふたつの大きな山がありました。
正しい名称はありません。
人々はその山があまりに仲良く隣り合うようにしてあるので、それぞれの山の山頂にある小さな社には、きっと守り神がおり、その守り神同士も仲良しだと信じておりました。
ふたりの守り神は出会い、話をしたりして楽しい時間を過ごしたいと思いながらも、自分の社を空けるわけにはいかないので、とても寂しい想いをしていると信じておりました。
広葉樹の多い山を白山。針葉樹の多い方を黒山といいます。
白山には目が赤く、透き通るような白い肌をした大蛇。
黒山には目が黒く、虹色に光る青い肌をした大蛇。
それぞれの山を守るため、何年、何十年、果ては何百年にわたって。
彼らは今も、出会えずそこに、いつづけております。

そう、それを信じる者がこの世に存在し続ける限りは、本当に。

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産業廃棄物の島で

いつか、いつの日か。
アナタの元に、あの小鳥が降り立つといい。

想像してみて。
太陽の光にてらてらと輝く美しい翼を持った小鳥が、アナタの頭上を舞い飛ぶ。
アナタはそれを見上げて、眩しさに目を細めて眺める。
そしてアナタは深呼吸をする。
実に心地よさげに、両手を広げて胸いっぱいに酸素を吸い込む。
ひと呼吸分止めて、深く吐く。
次に顔を上げた時のアナタといったら、これ以上ないくらいの笑顔。
そう、実に幸せそうに笑うのだ。

いつか、いつの日か。
アナタは。
今までの全てでもって、笑うのだ。
これ以上ないくらい、実に幸福そうに。

産業廃棄物だけでできた島の、空に一番近いところで。

一体どこへ?

伸ばした指先は、どこへ向かって?
君の頬?
君の手?
君の髪?
それとも全く違う方にある、青空だろうか。

空は晴れ渡り、小鳥は囀り。
ねぇ、馬鹿馬鹿しいくらいだね。

引き寄せる腕に強引さは十分込めてるつもりだけれど、それは空回らずにいられるだろうか。
君に爪なんて立てずにいられるだろうか。
指が食い込まないように、上手にできるだろうか。

踏み出した足は、どこへ向かって?
君の隣?
君の前?
君の傍?
それとも全く違う方向にある、階段だろうか。

僕らは何かを探して、いつも迷って。
欲しいものすら見失って、だけど諦めきれずに無様に深呼吸を繰り返す。

自ら自主的に伸ばしたはずの指先も、踏み出したはずの足も。
一体どこへ?

無事、君の元へ届くだろうか。

深呼吸の合間に

関係ないよ、大丈夫。

僕が言ってあげられるのはこれだけです。

僕は本来それほど沢山のものは持ち合わせていないのです。
この貧弱な手のひらは、どこまでも狭く頼りなく、言葉のカケラすらそれほど多く持てませんでした。
アナタが僕に言ってほしかっただろう言葉のイメージは何となくわかるのだけれど、それを素直に差し出す素直さも持ち合わせていません。

僕にもまだ、譲れないものがあるのだとわかったのは。
それこそ、つい最近のことなのだから。

全て捨てて。
全部捨ててしまえばいいのに。
それすらできないのは。

多分、それでも何でも、アナタに対して拭えぬ愛情と憎しみが、未だに消えてくれないからだと思います。

今更、痛みなんて。

あの時の言霊はきっと、アナタに対する僕の強がりだったのだと。
決して、アナタに渡すわけにはいきませんが。
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