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アップルパイ

薄く伸ばしたパイ生地のような、柔らかい歌の向こう。
遠すぎてその本当の大きさもわからない飛行機が、空を飛ぶ音を微かに聞く。
顔を上げてその音の元を探すけれど、薄青い空に見つけることはとうとう叶わなかった。

会いに行くよ、会いに。
この目に焼きつけ、忘れない内に。
その音も歌も声も、触れた温度もリズムも匂いも気配も全部、硬いアスファルトをナイフで削るようにして。
刃こぼれしてでも、刻み付けるから。

僕が、忘れない内に。
僕が、忘れないように。

空に飛行機雲を見つけることもできずに、だけど探すことは忘れないから。

探しに行くよ、探しに。
この耳で、この瞳で、この胸で、この手で、
確かに。君が、そこにいたことを知りに。
そして君が、煮込んだリンゴのように甘酸っぱい懐かしい匂いを思い出したら、僕はやっと、シナモンの匂いを思い出せる。

焼きましょうか、歪なアップルパイでも。
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それをください

手を伸ばす。
「それを僕にください」と声に出す。
「どうか僕のそばにいてください」と願う。
求めもせず差し出しもしない潔さに救われる。
ただそこにいる。
呼吸をしている。
少しだけ、こちらを視界に認める。
「どうか僕のそばで生きてください」と祈る。
そこに存在することが当たり前になればどんなにいいかと思う。

ぬくもりなんて面倒くさいもの、元より求めていない。
差し出される恐怖を知っているのは、お互い様。
僕と君の体温は酷く低くて。
ぬくもりなど与え合ったところで、酷く焼け爛れるだけだから。
そして僕と君には受け取る手のひらなどなくて。
差し出されたとして、困惑を助長するだけだ。

君が死んだら、僕は路頭に迷うだろう。
だから僕は、なんでも君にあげよう。
どうぞ。
せめて君だけは、全部壊して空っぽにしてからにしてください。
全て喰らい尽くしてからにしてください。
どうか。

僕は君より先には絶対に死なない。
君をひとりになどしてたまるか。
僕は手を伸ばしたあの時、そう決めた。
それだけが手を伸ばす条件だったから。
なのに、君に死なないでほしいと思う。
これでは、いつまで経っても僕らは死ねないままだ。

これは恋などという甘ったるい良いものではない。
まして、愛などという優しく温かいものなどでもない。
ただの執着と固執と、僕を形成するエゴ全てなのだ。

繰り返し繰り返し

繰り返し繰り返し。
飽きることもなく紡ぐ言の葉は。
無力だろうと無意味だろうと、繰り返す。

君の背中越し見える空の色と。
指先でそっと翳した紅水晶の光。

眼前通り過ぎるのは、雪虫だったのかそれともただの幻だったのか。
本当の、雪だったのか。

「空の高みから舞い降る美しい雪は、神様からのプレゼントよ」

その言葉を信じていた時期も、ありました。

冷たい雨が雪に変わる頃

私のとってのこの5年間は、とても長く重たいものでした。
思い出さないように思い出さないように。
そうやって5年も経てば忘れられると信じて。
忘れることなどできないことを知りつつも。
そんなやり方でしか、守る術を知らなかったから。
大切に大切に抱きしめ守ってきた記憶は全て、抜け落ちることもなく今もここにあります。
あの頃にしか感じられなかったものもあるし、今でこそ理解できるものもあります。
だからきっと、この5年間は不必要なものではなかったのだろうと思います。
なくしてしまったものももちろんありますが。
手に入れたもの、手に入れなおしたものもあります。
それでもブラスマイナスゼロにはなってはくれませんが。
抜け落ちた全ては埋まらないけれど、それでも。
時間が経ったからこそ手に入れられるものもあった。
それでよかったのかもしれません。
笑うアナタを見て、やっとそう思えました。
ぽっかり空いたままの穴でも。

完全な空っぽにしてはくれませんでしたね。
結局。
僅か痛む隙間を埋めるようにして。
全て壊してはくれませんでした。
最後に全て奪い取って行ってくれませんでした。
糸が切れた操り人形のように、その場で動けなくなってしまえたら。と思った日もありましたが。
過去にだけ生き続けられたらと思った日もありましたが。
アナタが現在生きるのであれば。
私も現在に生きましょう。

アナタの手はそれでも何でも。
やっぱり、とっても優しいままなのですから。

アナタの言霊を抱いて、大切に大切に。
優しい手のひらを、想って。

ここに、アナタはいないけれど。

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ある風の強い晴れの日に

どれほど場所を確保したところで、微妙な位置は変化することはないはずなのだけれど。
どれほど数を増やしたところで、その不確定さも変化することはないはず。
分かっているのだけれども。
それでも確保する場所が違えばきっと、それなりに違う意思がそこにあると信じて。
そうやって、数を増やし確保してしまうのだろう。

あと何回眠ればいい?
あと何回、笑えば済むというのか。
あと何回で全て終了するのか。
結局離れられない事由を増やしたところで、何も代わりになってくれないと、どこかで分かっているというのに。

己の首を絞めるのは、真綿でも麻紐でも、あの人の手でもなく。
己の手でしかない。
それは、変わらないのだから。

あと何回で。
あの人のようにくるくると舞い踊るように回れるのだろうか。
あの光の中で。

ひとつひとつ積み上げ作り上げたその歪な積み木を崩すのは、やはり己の手でしかありえない。

「80.同時」の副産物

とっさに伸ばした手は同時。
互いの手首を掴もうと足掻いたせいで、虚しく空を切った指先もほぼ同時。
うぁ、と嘆くみたいな口惜しい悲鳴が唇の先から零れたのもほぼ同時。
彼に伸ばした手と反対の腕を掴んで引く仲間その1と、俺に伸ばした手と反対の腕を掴んで引く仲間その2と、何故か俺たちふたりの間に腕組みして立つリーダーの、顔をしかめた「うぜぇ」は、驚くほどぴったり同時だった。

…、何故。

…朝っぱらからこんな目に合わなければならないんだ!

口には出さずに唇を噛んだ俺と彼の視線が絡んだのも、同時だったかも、しれないけれど。
そんなもの、鼻先で乱暴に閉まったドアに簡単に阻まれてしまった。

おはようもきちんと言えてない。
よぅ、とか、そんな些細な挨拶すらしてない。
ただ、スタジオに入る前に一目くらい会って、ちょっと話してからギター部屋に篭ろうと思ってただけだ。
ミーティングは今日はないとわかってたけど、ちょっと彼に会いたいと思っただけ。
だからリズム部屋のドアを開けただけ。
…なのに。

そんな俺の行動を見事見抜いて待っていたのは、彼だけじゃなくて。

ずるずる後ろに引きずられるようにして廊下を強制的に歩かされる。
俺の腕を掴むそいつの手からは、力を和らげる優しさのカケラも見当たらない。

「…ぁアもう! いい加減に離せ!」
色々耐えかねて文句を言うも、
「やだよ。離したら逃げるでしょ」
「逃げねぇよ!」
「駄目。俺が駄目っつったら駄目」
子供じゃないんだから、と思うほどの返事だけで却下されてしまう。
睨んでやろうか、と首を巡らせると、こちらを睨むそいつの大きな瞳とかち合った。
「ていうかリーダー命令だから。最近お前腑抜けてるから」
「腑抜けって…」
「自覚ないの? それでなくてもスケジュールぎりぎりなのに、俺やらギターに挨拶する前にあいつに挨拶?」
「ちょっとだろうが!」
何を拗ねているのか、そいつは俺と前方をちらちら忙しく睨みながら歩く。
ずかずか、という音がそのまま似合いそうな歩き方だ。


(停止)

視界。

懐かしい人の面影は、どうか懐かしいままで。
愛しいその名の響きは、どうか愛しいままで。
その瞳の強みは未だ健在でしょうか。
その声のトーンは未だ健在でしょうか。
やわく微笑む頬の動きは、未だ健在でしょうか。

強く焼きついた59回。

変わらないのは君だけだ。
変われないのは僕だけだ。

目が合って。
もしもそれでも僕を覚えていてくれたなら、どうか。
どうか僕の名前を、呼んでください。
その瞳で。その声で。その微笑で。

君の視線から逃れ目を閉じる、60回目の、僕を。

欲しがったものはただの、

欲しがって欲しがって、手を伸ばしたのは。
ただの、何てことない植物の種でした。
どんな花が咲くのかなんて知らなくて、ただ。
小さくて茶色いその一粒が、欲しかったのです。
土に埋め、水をやればいつかきっと、淡くも生き生きとした緑色の芽が生えてきてくれるものだと。
全身に太陽の光を浴び、双葉に別れ、また伸びて、そうやって育ってくれるものだと。
いつか、蕾を膨らませ、綺麗な花弁を開いてくれるものだと。
そう、信じていたものですから。
欲しがって欲しがって、強請るように手を伸ばしたものは。
ただの、何てことない植物の種だったのです。
花が咲くかどうかも分からなかったけれど、いつかきっと。
それは願うように綺麗な花びらでもって輝いてくれるものだと。
そしていつか閉じ、実を結び、新たな種をこの手のひらの上、くれるものだと。
そう、真剣に祈っていたものですから。
今?今ですか。
もちろんこの手のひらの上、あの時欲しがった種子などもらえませんでしたから。
花どころか空っぽのままですよ。
だから、まだ手を伸ばしたままでいます。
どうにも諦めが悪いもので。

lemon drop(処分品)

「たまには飢えさせるくらいで丁度いいんじゃねぇの?」
「酷い。飼い殺しかよ」
「それはそれは…鬼畜な発想だねぇ」

ある人が笑った。
それを受けて、ひとりが笑った。もうひとりも。
笑えなかったのは、俺と、彼だけだ。

飼い殺されたってかまわないと思っていた時期もあった。
それが何より楽に見えたからだ。
何もかも面倒くさく感じていた頃なんて、むしろ魅力的にすら思えたものだ。

飼い殺される。
飼い殺される。
このままじゃ、俺は、――――死んでしまう。

昔、誰かが嘆いた言葉を思い出す。

このままじゃ駄目になる。
このままじゃ。
…だから、逃げろ。
早く。
ここから逃げろ。
飼い殺される…!

悪夢のように繰り返し脳裏に木霊する悲痛な叫びはただ、俺と、彼の脳裏にだけこびりついて消えなかった。
他の誰の耳にも届かなかった。あの喉を酷使しすぎて掠れた声。

甘い、甘い飴の味。
それは時として苦くて息ができなくなる。
慰めだとか、労わりだとか、そんなものから程遠いところまで。
飢えて錯乱した誰かが、呪うように床に這い蹲ったまま、爪を立てた。
ぴかぴかだったフローリングに、無残な爪痕が残る。

嘆く言の葉は懐かしい痛みを呼ぶだけで、他の何にも作用などしない。
ただ謝罪の言葉を繰り返すその行為すら、自分もろとも相手を傷つけるだけだったのに。



(停止)

小さい頃

小さい頃、願った夢は全て叶っていた。
小さい頃、願う夢が沢山あった。

小さい頃、今のこの瞬間の風の匂いを、大人になった自分にプレゼントしたいと思っていた。
だからお母さんに買ってもらった猫のパズルピースの入っていた箱に、お気に入りのタオルと小さな縫いぐるみを入れて、そっと蓋をして。
背伸びしなければ届かない、クマのプリントがされた可愛らしい箪笥の、一番上の観音開きになる扉の奥へ仕舞い込んだ。
きっと大人になった自分は、ここに背伸びなどしなくても届くようになるのだろうと、思っていた。

大人になって、それを開ける前に。
高校生だった自分が開けた。
そこには、思い出せるだけの風の匂いなどなくて。
ただ、くたくたになった懐かしいタオルと、薄汚れた小さな縫いぐるみがあるだけだった。
高校生の自分はそのタオルを洗濯して、また使った。
小さな縫いぐるみは、また同じ箱の中へ仕舞い、そのままだ。

小さい頃、大人になった自分のために残した風は。
まだ大人になっていなかった高校生の自分には届かなかった。
高校生の自分は、もう大人になったと思っていたのだろうか。
もし、今の自分があの時の箱を開けたなら。
自分は、あの頃の風の匂いを感じることができたのだろうか。
もう、大人になれているのだろうか。

小さい頃、祈る夢は必ず実っていた。
小さい頃、祈る夢が沢山あった。

大人になったら、それが全部、なくなるなんて考えなかったけれど、きっと。
いつか全部なくなってしまうのだと、どこかで覚悟していたのかもしれない。

小さい頃、二階の窓から抜け出して、屋根に登った。
針葉樹の濃い緑色と、空の青。雲の白と土の茶。
「危ないから気をつけなさい」
お母さんが怒るでもなく、笑って言った。
裸足で登った屋根の汚れが、足の裏を黒く汚すことなんて何でもないことだと思っていた。
大人になったら、屋根にも登れなくなると、きっとどこかで覚悟していたからかもしれない。
高校生になった自分は、もう屋根に登れなかった。
だけどその代わりに、道路脇に捨てられていたのを姉が拾ってきた猫たちが、屋根の上で風を感じてくれているのが嬉しかった。
小さい頃、自分が見た景色を。
きっと、あの猫たちが見ているのだと。
だけどその猫たちもいつしか、巣立っていった。
あの家は、彼らにとっての通過点でしかなかったのだ。
だけど、それでよかった。
彼らが自分の意思でその道を選んだのだから。
今は生きているのか死んでしまったのかも分からない。
だけど、それでよかったのだ。
あの風の匂いは、あの猫たちと小さい頃の自分だけの、宝物なのかもしれない。

小さい頃、大人になった自分のために残したプレゼントはもう、どこにもない。

完全に生え揃った永久歯は、噛み付く指に痛いだけだった。

歯型だけが無残に残る。
ふやけて弱くなった爪と皮膚の白さに、苦々しさすら感じるだけで。
じわりと残る痛みに似た熱があるだけで。
たったそれだけ。
どうせいづれこれも消える。
何事もなかったかのように。

まだ乳歯すら生えていなかった頃は、一体どんな感触だったのだろうと思う。
思うけれど、思い出せるわけではない。
そんなわけない。

結局、同じだっただけだ。
指を咥える癖が、爪を噛む癖へと変化して。
爪を噛む癖が、タバコのフィルターを噛む癖に変化しただけで。
結局、何一つ解決していなかっただけだ。

許される許されないの問題ではなく。
ただ、あてどなく立ち尽くし途方に暮れる幼子のようにただ。

未だ生え揃わないのは、永久歯ではなかった、という訳だ。

灰と欠片

そうは言っても。
私に何を言えと。
私なんかに、今のアナタに対して、何が言えるというのでしょう。
アナタはきっと、私に何かしらの言葉を求めているのでしょうけれど。
だけど。
彼女がお気に入りだったバスタオルもろとも、灰と骨の欠片になってしまったことに対して、私が言える言葉なぞ元よりないのです。
そばにあった弱く優しいぬくもりが、アナタの手のひらから遠く、遠く離れてしまったこと。
その事実は私にすら辛いのだから、きっとアナタはその比ではないはず。
元気出して。なぞもってのほか。
元気なんか出るわけがない。
大丈夫か。なぞ答えも知れている。
大丈夫なわけがない。
共に悲しむことすら、アナタからすれば「お前に何が分かる」と嘆くタイミングに成り下がる。
私には何も分からない。
アナタが彼女を大切に、愛していたことくらいしか。
クリスマスまで、もたなかったことなんてどうでもいい。
彼女が、最後にアナタの手に抱かれて眠りについたことだけが重要。
きっと幸せだったよ。なぞもってのほか。
そんなもの、生きている人間だけが己を慰めるためだけに持つ妄想だ。
アナタを見守ってるよ。なぞ奇麗事。
これもまた、妄想でしかありえないからだ。
「骨だけになった」
そうは言っても。
私に何を言えと。
私なんかに、アナタに渡す言葉なぞない。
言葉というものに過敏な私が、言葉というものに過敏なアナタに対して、かける言葉なぞない。
私は言葉を用いて言葉で捜す。
だけど完全に使いこなせる日なぞこないと思っている。
だから私は探す。
未だ不完全なままの私には、今のアナタにそっと差し出せる言葉なぞ、持ち合わせていない。
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