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嘘つき

嘘をつくことが悪いなんて言った覚えはない。
嘘で塗り固めたそれはとても美しく、ただただ完全に見えたのだから。
素晴らしいほどに完璧に。
そんな場合もある。

だけどあの時、「何も見ていない」と言った彼は凄いと思った。
見えないことを見えないと発言することの難しさを知っている。
目の前は霞み、焦点など合わないと。
何も。
誰も。
そう、彼はあっけらかんと笑って言った。

嘘をつくことが良いなんて言った覚えもない。
だけど、嘘で塗り固めたそれはとても素敵だった。
きらきらと輝いてさえ見えた。
それだけで十分だと思った。

どうせ嘘をつくならば、いっそ。
どこまでもどこまでも、一切の真実を塗りつぶして、見えなくしてください。
そうすることでアナタは楽になるし、僕も楽になる。
ただただ完全に見紛うそれだけを押し付けて、満足すればいい。

嘘が絶対悪なわけではない。
かといって、絶対正義であるわけでもない。
それをアナタは痛いほど知っている。
だから、嘘で塗り固めたそれを、もっと見せてください。
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飢えた獣3

己の手のひらを見下ろして途方に暮れるのは、一体いつぶりだろうと思った。
見下ろす手のひらは、あの頃とは全く違う。
あんな小さくて貧弱だった手のひらじゃない。
もう、ずっと大きくなって、力も強くなった。
そこら辺のちょっとした荒くれ者も簡単にねじ伏せられるくらい、強くなった。
それなのに、あの頃みたいに途方に暮れている。
血にまみれた大きな手のひらを見下ろして。

この手は何のためにあるのだろう。
生きるため。
自由を勝ち取るため。
楽しむため。
…殺すため。
そう、それだけだったはずだ。
それで満足していた。
毎日毎日獲物を追いかけて、切り裂いた。
殴ったり蹴ったりするだけだと、あの女を思い出すから。
だから俺はあの女を刺し殺して思う存分切り裂いて、自由を手に入れたと同時に、この爪を手に入れた。
切り裂く肉の感触と、熱いくらいの返り血を浴びて。
命乞いをする声も、恐怖だけに彩られた目も全部心地良かった。
完全に壊れたそれを踏みにじることも。
あの女が最後に俺に教えてくれたものだ。
全部全部。
それだけで全部だ。

なのに、目の前に眠る子猫に触れようとした。
伸ばしかけた手を、止める。
触れ方が、…わからない。
ちっちゃくて弱い子猫。
ちょっと掴んで力を入れたら、簡単に壊れてしまそうだ。
違う。壊したいわけじゃない。
これは獲物じゃない。
…触れたいだけ。
なのに、触れ方がわからない。
壊れる。壊したくない。
だけど触れたい。
…何故だ?

伸ばしかけた手のひらを引っ込めて、まじまじと見下ろして途方に暮れる。
感覚をもてあます。
手のひらに汗が滲み、小さく震えていた。
あの頃よりずっと強くなったはずなのに、すごく弱く見えた。

恐怖している。怯えている。躊躇している。
この俺が?
子猫に触れることを?
俺が子猫に触れたことで、子猫が壊れることを?
俺が?
子猫が壊れることで、俺が壊れることを?
…待て。何故子猫が壊れたくらいで俺が壊れる?
今まで何でも壊してきた。殺してきた。
あの女も、数え切れない獲物たちも、全部だ。
そうやって勝ち取ってきた。
生きること。
自由。
楽しむこと。
それだけのために。
血にまみれたこの手で。自分の力で。
それでも子猫に触れたいだなんて。
ただ触れるなんて、したことないのに。
したいと思ったことなんてないのに。
触れてどうする。触れ方がわかったところで触れてどうする。
俺は、どうしたいんだ?

ただ触れたいだけだなんて、…どうかしてる。

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飢えた獣2

差し出した手のひらは、自分の理想よりずっと小さく貧弱だった。

『早く早く大きくなりたい』『早く。誰より早く』

呪文のように心の中で繰り返す。
何故なら、口癖のように女が俺に言っていたからだ。

『ハヤク』と。

子供だった自分に向けて女は焦れたようにいつも言っていた。
だけどその意味がわからなくて、どうにか理解しようと努めては途方に暮れた。
とにかく、自分が非力な子供のままでいるから、その意味が理解できないのだと思ったから。
だから、早く大きくなりたいと思った。
それだけだった。
…少なくとも、最初は。

しかし女はそんなことも知らず、『ハヤク』そう、急かした。
きっととても浅はかな女だったのだろうと今なら思う。
感情の安定、不安定をカケラもコントロールできない女だった。

「手を出してごらん」

女は白と青紫の煙を纏いながら、口端を歪めて笑んだ。
こういう顔をする時は、決まって気まぐれ。
機嫌がとてもいいか、とても悪いかのどちらかだ。
そのどちらかがわからなくて、ひっそりと怯えた。
こういう時に怯えを全面に出してはいけない。女の加虐心に火をつけかねない。
一旦火がついた女は、嬉々として無抵抗のこちらを殴り、蹴る。
自分を含め、他者に暴力をふるっている時の女は、どんな時よりもずっと奇麗で生き生きしている、と思う。
だが、一度興奮した女はなかなか手を止めてくれず、加減も忘れ、こちらが瀕死の状態に陥る危険もある。
そうなる前に、反撃してしまいそうになる。
一番何に怯えるかといえば、女からの暴力そのものではなく、女に対して無抵抗でいられなくなりそうな自分だ。
今、反撃したところでどうなるわけでもない。
ただただ完膚なきまでに。死ぬまで打ちのめされるだけだろう。
そして、死んでもそれに気づかれず、打ちのめされ続けるだけ。
この手はまだ、小さくて貧弱なのだ。

…まだ。まだ駄目だ。

心の中で呟く。
死ぬことを恐れているのではない。
ただ、女に無駄に嬲り殺されるのだけは御免だった。

「ハヤク」

女は急かす。
怯えを噛み殺し、黙って手を出した。
その手のひらに、女は半透明の黄色い硝子玉のようなものを置いた。

「…?」
「食べてみなよ」

何か分からず女を見ると、女は顎で促す。
これがそもそも食べ物なのかどうかわからない。
しかしここで食べなければどうなるか。
機嫌はいいようだから、それを無駄にしてはいけない。
思い切って口に含むと、思いの他甘く、ちくちく上顎に沁みた。

「レモン味の、飴よ。食べたことないでしょう?ぼうや」

女はこちらを子ども扱いしたい気分だったらしい。
「ぼうや」と呼ばれて虫唾が走った。

舌の上、溶けては沁みるそれ。
甘酸っぱい匂いが、食道を介して鼻腔にも滲む。
どこまでも甘いだけ。
どこまでも酸っぱいだけの、はずなのに。
喉の奥がぎゅう、と絞まる。
目の奥が、ちかちかと点滅している。

…苦い。

「おいしい?」

女は精一杯の優しい微笑みを浮かべ、こちらを見た。
反吐が出るほど「母親」の顔を繕った女は、ちっとも奇麗じゃなかった。

『…早く早く大きくなりたい。誰よりずっと』

呪文のように心の中で繰り返す。

『そしてこの女を殺して、自由になるんだ』

二度とレモン味の飴なんか食うもんか。と強く思った。

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飢えた獣

断末魔の叫びは赤く。
しかしその赤い声すら喰らい尽くそうとするかのように、獣は大きく口を開いた。
覗く口内はすでに赤く染まり、千切られた肉片すら見える。
声も、血肉も、全て。
己に取り込み、己の血肉とするかのように。
開いた口から零れる音は、獣の咆哮。
げらげらと、甲高く耳障りな狂気に染まった笑い声だった。


 ---


『なんでもそう。作るのや保つのはすごく難しいのに。壊すのは、こんなにも、とっても簡単』

壊れたものを見下すようにして、あの女はからからと笑ったことを思い出した。
ろくでもない女だったけれど、唯一でもあった。
あの頃の、俺にとっては。

『なんて面倒なの。もう嫌』

女はそれだけを言って、放り出した。
投げられたそれを、そのまま捨て置くつもりなのだろう。
ちらとそれに視線をやるだけで咎められた。

『そんなもの見てどうするの。さぁ、行くわよ。もうここには用はないの。それにもね』

女は忌々しいものを吐き捨てるように言い、顔をしかめた。
それに無言で従うしかなかった。
ただ、女がそれを踏みにじらなくてよかった。とだけ思った。


 ---


獣の咆哮は、記憶の奥底に沈む女の、冷笑を思い出させる。
かと言って、笑うことをやめるつもりはない。
ちっとも可笑しいことなどないのだけれど。
笑みは次から次へと湧き出し、まるで泣き叫ぶ子供のように止める術を知らないのだから。

獣はそうして、しばらく笑い続けた。
酸欠に喘ぐことはなかったが、引き攣るような呼吸が肺に苦い水が溜まっていく様に似ていると、なんとなく思う。

喉の奥に酷い渇きを覚え、獣は壊れかけたそれを見下す。
何の役にも立たない。
もうすぐ完全に壊れる。
ただ、捨て置くことはできないだろう。
それが、自分とあの女の違い。
僅かな差だがしかし、決定的な違いでもある。

先刻喰い千切った喉元から、どくどくと赤黒い液体が流れ、それは最期の痙攣を始めていた。
喉の渇きは癒えず、限界を知らせる。
もう一度拾い上げ、溢れるそれを口に含み、飲み下した。
後から後から、溢れる。
…あたたかい。未だ。
甘い。今ならまだ。
喉が、渇く。

飲み下す。
飲み下す。

「……!」

急激に胃が収縮し、せっかく飲んだそれを全て排除しようと足掻く。
拾い上げたそれを投げ出し、嘔吐した。
全て。
胃液も、内容物ももろとも。

…ほらね。壊すのは、こんなにも、簡単。

耳の奥、女が笑った。

喉が、渇く。
もう全て排除したはずの胃はそれでも尚、収縮を繰り返す。
獣は咆哮する。
可笑しいことなど何一つないと言うのに。

獣の喉が潤されることはない。
獣の飢えが満たされることも、ない。

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冷静か混乱か

またも夢を見た。

男女混合6、7人で移動していた。
向かう場所はひとつ滅んだ街だった。
ちょっと冒険に行く、遊びに行く、という感覚だったが、一応無人だし荒廃している街なので、簡易な武器も持って行った。
そこへ行く前に、コンビニでそれぞれ好きなものを買った。
何故か私は甘いお菓子をひとつ、買った。

しばらく歩いて、街に入る前。
ひとりの男の子が自販機でペットボトルを買い、飲もうとしていた。
が、歩きながらだとうまく飲めない。
先を歩く他の仲間たちの歩調は早い。
だから私は「ちょっと立ち止まって飲めばいい。すぐに追いつけばいい」と笑ってその子の腕を引いて止めさせた。
その子は笑って、ありがとう、と言ってそれを飲んだ。
そしてコルクの栓がされている試験管のようなものをポケットから出し、中に入っている粉薬のような白いものを手のひらに出し、それを舐めた。
それはなに、と問うと、糖分補給のようなものだ、と言った。
少し私の手のひらにもわけてもらい、舐めた。
確かに、水に溶かせばスポーツ飲料になりそうな、甘い味がした。

気づけば、先を歩いていたはずの仲間が見当たらなくなった。
携帯電話のような、無線機のようなもので連絡を取りながら、合流しようと焦った。
少数人数で歩き回るには危険だった。

街はほとんど、草木に飲み込まれていた。
あちこち探し回りながら、大きな蜘蛛の巣を避けて歩いた。
時折、見るからに毒蜘蛛がいたりして、少し怖かった。
蜘蛛自体は怖くないにしても、規格外の大きさと、その種類の未確定さに恐れた。
踏み潰したら、丸い腹は液体で満たされていた。
その液体すら触れることを恐れた。
きっと毒だ。と思った。
見晴らしのいい高い廃ビルの上、下を覗けば、アスファルトだったはずのそこはもう、野草で覆われてしまっていた。
そこに、5、6メートルほどの大蛇がいた。
何故か首から上が人間の頭蓋骨だった。
空っぽの目と目があってしまい、私は焦った。
廃ビルを昇ってくる。
そして私たちがいる屋上へ。
「昇ってきたよ!」
悲鳴と共に、一緒にいた子が叫んだ。
私はその子に駆け寄り、振り向き様に鞄に忍ばせていたミニサイズのボウガンのような武器を向けた。
蛇は獲物を襲う直前、首をもたげて狙いを定める習性があることを覚えていた。
次の瞬間には、ものすごいスピードで噛み付き、身体を巻きつけるのだから、その一瞬を狙わなければならない。
振り向き様、ボウガンの安全装置を外した。
まるでスローモーションのようだった。
頭部だけが人間の頭蓋骨をした大蛇が、まさにこちらに飛びかかろうとしていた。
私はどこか冷静に、背後で悲鳴をあげる子と、己の命を守るため、引き金を引いた。
短くするどい矢は放たれ、頭部だけが人間の頭蓋骨をした大蛇の、大きく開いた口の奥へと。

そこで、目が覚めた。
ボウガンをつかみ出す前はあれほどパニックになっていたのに、武器を手にした途端、不思議と冷静になっていたことを思い出す。
大好きなはずの蛇は、その存在の大切な頭部が、人間の頭蓋骨だった。
別に怖くもないはずの毒蜘蛛は、規格外に大きく、嫌な予感ばかりした。
殺すつもりなんてなかったのに。

思ったより、鼓動はうるさくなかった。
私は恐怖にまみれた悪夢だと思いながら見たこの夢を、実はそれほど怖がっていなかったのかもしれない。
それだけが、救いだと思った。

街に入る前に、コンビニで買った甘いお菓子は、きっとケーキのような柔らかさで、私たちが踏みしだいた野草の上、もう潰れてしまったのだろう、と思う。

切望する光

要人用の防空壕のような、個室のある地下要塞のようなところに、住んでいる夢だった。
少し狭い部屋に、だけど家具も一通り揃っていて、それなりに快適に暮らしていた。
地上には出してもらえなかったけれど、それはちっとも問題ではなかった。

そこに、違う街の地下要塞から、地上と地下トンネルを使って、姉と、子供の頃近所に住んでいた幼馴染の女の子が来た。
ただ数日宿泊して、また戻っていくのかと思ったら、彼女らは私と共に、地上へ出ようと言い出した。
地上へ出るのは容易ではないと知っていて。

私は地下の生活に何等不満を持っていなかったが、彼女らは、ここへ来る時に垣間見た地上の話をし、光の話をして誘ってくれた。
私はその「眩いほどの太陽光」を見てみたい、と思った。

そして周囲の皆が寝静まるのを待って、私たちは広大な地下通路を彷徨った。

ふと、幼馴染が天井を指差した。
そこにはほんの少しだけ、割れ目があった。
手を差し込めばぎりぎり。
もしくは抜けなくなってしまうのではないか、と心配するほど、狭い割れ目だった。
しかし目を凝らしてその隙間を真下から覗くと、きらきらと眩しい青が見えた。
目が眩む。
流れる白い雲。
微か、風が吹いた時に、その割れ目の周囲に生えているのだろう野草の緑がちらちらと見える。
そのまま見入っていたら、小鳥の囀りさえ聞こえてきそうな気がして、

私は、その隙間に精一杯手を伸ばした。

触れたかった。
土や、草に触れたかった。
なにより、光に触れたかった。

精一杯手を伸ばす。
もう少しで光に届く。
私たちは期待に歪む頬や口端を、隠そうともしなかった。


そんな、夢を見た。

それはきっと

それはきっと、君と僕の回転数の違いから生じたものなのだろう。

それはきっと、君と僕の。



どんなに歯を食いしばっていても、唇噛み締めていても、
隙間から容赦なく零れ落ちてしまうものであって。
一度そうしてうっかりあぶれてしまった可哀相なものたちはきっと。
火葬しようと土葬しようと足掻いたところで、もはやどうすることもできないのである。

よって、僕は君との回転数の違いをまざまざとこうして身に染み入るように感じつつ、呆然と立ち尽くすしかないのである。

またも今年も性質の悪い夏の虫が騒ぐことくらい、予想はたやすかったので、
もう諦めの境地に立つしかないのであって。
今更破り捨てようと踏み潰そうとしたところで、それらすら敵わないわけである。

しかしながら君の優しいだけの微笑みでそれらを見つめられてしまうわけにはいかないので、
僕はやはり、足掻くしかないのである。
愚痴を呟く暇すらない。

君に、見つかるわけにはいかないのである。
君に、回転数の違いを気づかせるわけにはいかないのである。

君を、悲しませたり苦しませたり絶望させたりするわけにはいかないのである。
別に、期待されているわけでもないのだろうけれど。



何はともあれ。
一度生じてしまったずれは、いつか決定的なものとなってしまうのだろうことは想像は難くない。
僕はひた隠しにそれらを君の目から眩ませるためだけに、性質の悪い夏の虫を握り潰そうと顔をしかめるだけである。
見せてはならぬものは、僕の真横に山ほど積み上がっているのであるから。

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