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ノスタルジア

どうか。
どうかこのまま。
どうか。

水の中に。
海水よりは淡水がいい。
あんな生命濃度の濃すぎるものより、もっと少し優しいのがいい。
生命の源は、私には苦しすぎるから。

水の中に。
完全な透明より、薄く色の入った、だけどどこまでも透き通った水がいい。
完璧な透明度は、私を全て晒してしまうから。
視界のない濁った水は、私から全て見えなくしてしまうから。

水の中に、沈みたい。
深いグリーンがかった透き通る水や、淡いブルーの水。
とても安らかな気持ちで水底に沈めそう。
目を閉じて。弛緩して。
ゆらゆら。

それはまさしく、ノスタルジア。

還りたいと、強く思う。
惹きつけられる。
呆然と見つめているだけで、ぐぐっと引かれる。

どうか。
どうかこのまま。
どうか。

あの水底へと、沈めてください。
きっといつかあそこに還りたいと、私はずっと、願っていたのですから。

あの寒い、冬の日から。
ひとり立ち尽くした、川岸で。

だからどうか。
どうかこのまま。
どうか。


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捏造する過去

姉と、私と、弟と。
それだけは確かだった。
それだけは。

15年ほど前の情景だった。
しかしそれは決して事実あった過去ではなく、私の脳内でだけ捏造された過去だった。

稲の苗床のようなものを、三人で見下ろしていた。
ひょろりと細く伸びたライトグリーンの芽は、それぞれまだ10cmにも満たない、か細いものたちばかり。
しかしその中から唯一、20cm近く伸びたものがあった。
それをいち早く発見した姉が、それを周囲の土ごとそっと取り上げた。
小さな両手に包まれた芽は確かに、稲などではなく。
無駄な枝葉もなく、細く滑らかな身をひょろりと真っ直ぐ空へ伸ばしていた。
きっと赤く美しい花を咲かせるのだと思った。
姉の両手の中、零れ落ちる土と、その指の隙間から見える根。
姉はそのまま何も言わず、その苗を持ってどこかへ行ってしまった。

その植物の名前は知らない。
だけど、赤く美しい花が咲くのだと確信していた。
そして、我々兄弟はどうしてもそれを咲かせなければ。と思っていた。
理由はわからない。
ただ、咲かせたいがために三人でここに探しに来たのだけはわかっていた。
姉はもういない。
私と弟はもう一度、苗床のようなものを見下ろした。
這い蹲って、10cmにも満たない苗たちを見た。
まだ、弱い。
もう少し成長しないと、姉のように土ごと掬って移植などできない。
か弱い苗に、移動に耐えられるほどの力はない。
だが、私と弟はどうしても苗を持ち帰りたかった。
姉のように。
伸びた苗を両手に持って帰りたかった。
二人、必死で苗床を見つめた。
どんなに探しても見つからないし、急激に苗が成長してくれるはずもないのに。

私たちは途方に暮れて立ち尽くした。

花は、咲かないのか。
私たちには、咲かせることができないのか。

赤くて、柔らかい花弁が幾重にも重なった美しい花は。

…あの花は、なんて名前だったのだろうか。

指折り数える

こわいものはたくさん。
ひとつひとつかぞえてたらきりがないくらい。

たすけて。

しこうが、からだが、くさっていくんだ。ただれてくずれて。
ふはいしゅうではきそうになるんだ。

たすけて。

こわかった。
はじめてあなたにふれたとき、ただ、おもった。

こわい。

だけどこわいのに、こわいからすがった。
ひっしにあなたにつかまった。
すこしでもはだがはなれるのがこわかった。

たすけて。
そういってないたおれを、あなたはかなしそうにふあんそうにこわごわ、てをのばしてだきしめてくれた。

つかんだてがおもいのほかつめたくて、おれはただただ、いきをのんだ。

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Silence

景色が歪む。
目眩に似てる。
痛いくらいだ。

だから目をきつく閉じたんじゃないか。
あの時。
僕は。
僕らには眩すぎたんだ。

つま先から、せり上がってくる。
滑り上がるように着実に滑らかに。

急激に変化していく全てに追いつけなかった。

音色が歪む。
頭痛に似てる。
痛いくらいだ。

だから耳を強く塞いだんじゃないか。
あの日。
僕は。
僕らには優しすぎたんだ。

髪の先端から、伸び上がってくる。
手繰り寄せるように着実に緩やかに。

確実に変化していく自分に追いつけなかった。

「気にしないでいいよ」って、うまく言ってあげられなかった。
あんなに練習したのに。
「気にしないでいいよ」って、うまく笑ってあげられなかった。
あんなに練習したのに。

しゃがみこんで小さくなって。
耳を塞いで目を閉じてた君の。
その、頑なに握り込み震えていた小さな手を、優しく解いてあげられなかった。

途方に暮れて立ち尽くした僕らの静寂は。
あの時もあの日も、守られなかった。
それだけだよね。

カタストロフィはやってこない

「いらない。何もいらない」

彼はかぶりを振って拒絶する。
両手を赤ん坊みたいに丸く握り締めて、胸元に隠して守る。

「いらない。何も必要ない」

彼は目をきつく閉じて否定する。
背を丸めて急所を隠して全てを隠して縮こまって守る。

「嘘だね。君はその全てを欲しがっているだけ」

あの人はそう言って彼を笑った。
指先に捕まえたままのタバコの火が、じりじりとその体積を減らしていくのに。
煙は空へ。
灰はその場に辛うじて繋がれて。
元々の形を残そうと足掻くのに。

重力は残酷にもそれを崩して落下させた。

あの人の膝の上でそれが壊れて散ってしまうのを、じっと見てた。

「君は駄々をこねる子供と同じ。無邪気に全てを欲しがっているだけ。欲しい、と叫ぶ代わりに、いらない、と言うだけ」

散った灰は脆く。
微かに吹く空調の風であの人の膝の上からすら散ってしまう。

あの人はそんなこと気にもせずに、かぶりを振って拒絶する彼を笑う。

「嘘だね。君は嘘つきだ」

そう言って笑う。

タバコは今も、じりじりと焼けてその本体の体積を減らしていく。
煙は空へ。
灰は散る。

「ほらね。カタストロフィはやってこない」

あの人は不意に、僕を笑って言った。
タバコを灰皿に押し付けて。

精密に作りこんだ罠に嵌まったのは自分の方。

濃密に練り上げた世界に罠。

一度捕獲されたら二度と逃れられない。

だから諦めなさい。と諭す罠。

優しい声もまた罠だと。

飲まれゆく渦中にも罠。

せめて全てなくす前に、一度だけでも笑ってて。

どちらが重罪ですか

知っていて犯した罪と知らずに犯した罪は。

どちらの方が重罪なのでしょう。

彼を食む罪は。

知っていて食んだことと、知らず食んだこと。

どちらの方が重罪だったのでしょう。

夢と現実の合間50/50

意識が浮上していることは分かっていた。

そして不思議なことに意識的に右頬を下に、と寝返りを打つと、夢の中で見ていた何かキラキラしたものの輝きが増し、
左頬を下に、と寝返りを打つと、そのキラキラしたものの輝きが減退した。
不思議なことだな、と思い何度か寝返りを打つも、やはり右頬を下にすると光の粒子が微細になるかのように輝きは増し、
そしてやはり左頬を下にすると粒子が粗くなるように輝きは減退した。

夢の内容はすでに忘れた。

ただ、キラキラと光る何かを見ていた。

降り落ちた言葉だけを思い出す。

「人の弱さがその存在のそれ自体を湾曲し、必要以上に美しく見せてしまう危険のある、変質しやすい脆いもの。それは『過去の記憶』である」

…うわぁごめんなさい。
多分、無意識下にでも脳裏にこびりついていたんですね。

人の記憶は曖昧だ。
記録に残しておいたって、自分の都合のいいように変化させていってしまう。
どんなに辛いことがあったって、いつか「いい思い出」にしてしまう。
人が生きていくための防衛本能かもね。

…、そう、だ…ね。
キラキラと光る何かは、もしかしたら「過去の記憶」の象徴だったのかもしれないね。

では、左右の違いは何だったのだろう?
右脳と左脳の働きの違いとかの関係だったのだろうか?

あんなに回帰を望んでいたけど

守ること。
諦めること。
決定すること。
請うこと。
費やすこと。
宣言すること。
嘆くこと。
潰えること。
憂うこと。
呼ぶこと。
泣き叫ぶこと。
捨てること。
抱き締めること。

それら全て、肯定する工程を晒すこと。
隠すこと。

手を伸ばすこと。
退くこと。

目をそらすこと。
睨みつけること。

祈ること。

まえへすすむだけ、
見えない前方をきつく睨みつけた子は確かに、アナタである。

どこにいけばいい、
呆然と立ち尽くすあの人は確かにアナタである。

かえりたい、
呟いて俯く彼もまた、確かにアナタである。

かえるところはない、
そして今、そこに立っている男もまた、アナタである。

いきたい、
いつかアナタはきっと、柔らかに噛み締める。
大丈夫。アナタはきっとまだ。

いつかアナタがかえりたがっていたあの場所で。
祈ってる。

朦朧とした意識の淵

わかった。

それは「理解」というよりただの「認知」でしかなかったけれど。

そしてそれは、別に「今」でなくても良かったのだけれど。

わかった。

それは探したり調べたりした結果ではなく、不意に振り落ちてきただけなのだけれど。

今まで僕が、その正体も知らず怯えていたものが、「他者の手」であること。
「他者の指先」であること。
「他者の感情」であること。
「他者の視線」であることを知った。

だからと言って、何が変わるわけでもなく、怖くなくなるわけでもないのだけれど。
そしてそれ以外の他に怯えるものがないわけでもない。

今まで気づかなかった理由は、怯えるものが多すぎただけであるから。

今更。
気づいたところで何も。

しかしこうして書き置くことを強いたのはただ、認知したことすら忘れるほど意識が朦朧としている自分のため。
忘れても、思い出せるように。

思い出したところできっと、何も変わらないし怖いままなのだろうけれど。

霧がかかったように見通せない。
朦朧と、そしてじわりと滲む。

忘れないため。忘れないため。
思い出すため。思い出すため。

自分のためだけに。

「わかったんだ。怯えていたものの正体のひとつが。さぁ、思い出して」

少しでも眠れるように。
夢など見ないほど、深く。

目を閉じて、祈ることをすら忘れないように。


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暑くて熱くて仕方がない夢

クーラーを29℃設定にして眠ると寒くて、だけど切ると暑い。
変えたばかりのシーツもすでに気持ち悪い。
着替えても着替えても蒸れる気がして、
仰向けになっても横に転がっても、
だけどうつ伏せだけは苦しくてかなわない。

我が家の玄関チャイムは壊れている。
引っ越してきた時すでに壊れていた。
だから、我が家の玄関チャイムの音がどんなものか知らない。
なのに、玄関チャイムが鳴る夢を見た。
普通の、ぴんぽーん、という音だった。
そして何度も玄関に忍び足で行って、小窓から覗いて相手を確認する夢を見た。

我が家の玄関のドアにある小窓は、一応黒いテープで軽く塞いでいる。
外から覗かれるような気がするからだ。
なのに、そのテープを捲って外を確認する夢を見た。

何度も何度も、チャイムが鳴る。
壊れているから、鳴るはずがないのに。
そのたび忍び足で玄関に行き、小窓から外を覗く夢を見た。
見たこともないおっさんがいた。
会ったことなどない、見覚えのない人だ。

怖いとは思わなかったけれど、誰だろう、何の用だろう、と思った。
でも返事をして玄関を開ける気にはならなかった。
きっと何かの勧誘だ。
こういう時は大体にして新聞とかの。
だから出ない。
最初から出る気はない。
だから忍び足で玄関に行く。

聞いたこともない玄関チャイムの音がする。
そしてまたそっと玄関に向かう夢を見た。

目が覚めたら、29℃設定のクーラーでも汗をかいていた。
そろそろ体調も治ってきたのかもしれない。

何故かふと、どうしようもなさや行き場のなさを書きたいと思った。
冷たいのか温いのかいまいちわからないフローリングの硬さとか、そこに汗ばんだ手のひらで触れた時の、埃の微かなざらつきを想った。

声は出るのに、続かない。

停止。

書けなくなった時いつも、ふと、思い出すもの。
それは、書き始めた頃の自分の姿。
椅子に座って、黙々とシャーペンと消しゴムとルーズリーフと睨めっこしていた頃。
下手くそな文章をつらつらとただ連ねていた頃。
図書室の本を部屋の隅で背中を丸めて読み漁っていた頃。

あの頃から私はどれほど変われただろう。


いつも稚拙な言葉を積み上げて折り重ねることしかできない。
編み上げるその技術もルールも何も知らないまま。
ただ吐き出さねば呼吸すらできないと気づいたあの時から、私は私の指先だけを働かせてきた。

それは音楽を作り上げるよりたやすい。
歌を口ずさむよりもたやすかった。
稚拙な言葉を繰り返すことは時間さえあればどこでもできる。
授業中だって私は吐き出し続けていた。
セーラー服を着ていたって、ジャージに着替えたって。
電気を消して目を閉じたって。
太陽の匂いのする毛布にくるまれたって。

口先から零し落とすこと。
そしてそれを誰かに優しくそっと差し出すことが苦手だったから、こうするしかなかった。

始まりは一体どこだったのだろう。
幼く頼りない指先は何故かいつも自信にも似たプライドに塗り固めて、それを否定するものをただただ激しく攻撃してきた。
ただ、怖かっただけだから。

私は私の指先だけを働かせてきた。
それしか方法はなかった。
それらを否定されることは、私自身を否定することと同等だった。
だからあの日だって攻撃した。
激しく抗議して強く机を叩いた。
憎悪の瞳で睨んで、絶対に許さなかった。
謝罪の言葉なんていらなかった。
撤回すらすでに遅い。
私はなけなしのプライドでもって、それだけで呼吸をしていた。
だから、何年経ったって、許せないままだ。

あの人は覚えてなどいまい。
あの人からすれば、過ぎていく長い人生の中の、ちょっとした日々の中の一欠の反逆でしかなかったのだから。
反省などしていまい。
噛みつかれた痛みなど感じなかったはずだ。
噛み付いた私の口端が切れ、だらだらと血液を流していたことなど、あの人には見えなかったのだから。

あの人は盲目だった。
あの人は難聴だった。

そして私もまた、盲目であり、難聴だったのだ。


私はあれから、どれほど変われたというのだろう。
今日もまた、稚拙な言葉を繰り返す私は一体。

懐かしい言葉を思い出した。

「A STRANGE PIECE OF PUZZLE」

この言葉はまさに、当時の我々と彼らの状態、状況、全てを的確に言い表したものであり、それらを皮肉に嘲笑する象徴でもあった。

この言葉だけは忘れまいときつく歯を食いしばったはずが、強かった彼らをすら無情にも押し流してしまうほどの濁流にもまれ、いつの間にか忘れていた。

思い出したよ。

「A STRANGE PIECE OF PUZZLE」

我々と彼らの、合言葉。
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