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a ray of hope

(鏡の表Ver.)

明日の朝には、光は差すのでしょうか。
朝焼けに凍えることなく、光を全身に浴びることができるのでしょうか。
明日の朝には、あなたは笑ってくれるのでしょうか。
俺はあなたに笑いかけられるのでしょうか。
いつになったら俺たちは。
伸ばす先もわからず、ただ伸ばしていたその手に触れ合えるのでしょうか。
ぬくもりを分け合えるのでしょうか。
自分にとって冷たいこの手は、互いにとって温かくあれるのでしょうか。
明日の朝、俺たちは。

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飢えた獣4

こんな触れ方なんて知らなかった。と笑う。
切り裂いて弄ぶ、だとか、乱暴に掴んで引きずり回す、だとか。そんな方法でしか、人に手を伸ばす理由がなかったと。
他に欲求は沸かなかった。
獲物か敵かしか、存在しなかったから。と。
そう言って俺を見上げる。
俺だって。
言い返す。
俺だって、触れ方なんて知らない。
ブラスターの試合で殴るか、蹴るか。肩をぽんと軽く叩かれることはたまにあったけれど、自ら誰かに触れることなんて、なかった。
触れたいと思ったこともない。
なのに。

「…どうしてだろうな」
「ふっしぎだよなぁ~?」

安穏と繰り返し交わす疑問の言葉は、特に答えを欲していないことに気づく。
それでいいのかもしれない。
ねだることも、ねだられることも。お互い、未体験だった。
だけど気づいたら、まだぎこちない時もあるけれど、両者間でならなんとかできるようになった。
甘えたり、我侭を言ったり、拗ねたり、相手の表情を伺ったり。
俺たちは、いつの間にか名も知らない感情を沢山共有している。

きっと俺たちは、子供の頃学習すべきだったことが欠落しているんだろうと思う。
そしてその欠落部分のバランスが、絶妙だったのかもしれないと。
あまりいいとは言えない出会い方をしたのに、それでも互いの足りない穴を埋め合うように。
いつの間にかこうして、そばにいる。
きっと俺たちはこうして、育ち直しをしているのだろう。
育てたり、育てられたり。
こうするしかなかったんだ、きっと。

気まぐれにせがむ膝を貸せば、甘える猫のような仕草で擦り寄る。
まるで昔から知っていた、慣れた仕草に見えるけれど、こんな自分なんか知らない。と笑った。
別にいいんじゃないか。と俺も笑う。
そうだ、普通に笑えるようにもなったな。と思う。
膝の上、でかい体躯を折り曲げるようにして、できるだけ全部で触れ合うように。

今まで飢えていることにも気づかずにいたのだろう。
それは、俺も同じなのかもしれない。
そしてその飢えは、一度気づいてしまうと際限がなくなってしまう。
きっとタガが外れてしまうのだ。
いつまで経っても満たされないような気がして。

こちらもまた気まぐれに膝の上の金色の髪に触れる。
すると、それ気持ちいいからもっとして。そう言ってせがむ声がする。
何度も何度も、意味なんてないのに。
せがまれるままに髪に触れる。
痛んでぱさぱさの髪はそれでも何故か、指先に絡まる感触さえ心地良かった。
せがまれなくとも触れていたいと思う。

「…どうしてだろうな」
「ふっしぎだよなぁ~」

繰り返し交わす疑問の言葉の答えは、俺たちふたりにとって不必要なものなのかもしれない。
なんとなく、そう思った。

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飢えた獣3

己の手のひらを見下ろして途方に暮れるのは、一体いつぶりだろうと思った。
見下ろす手のひらは、あの頃とは全く違う。
あんな小さくて貧弱だった手のひらじゃない。
もう、ずっと大きくなって、力も強くなった。
そこら辺のちょっとした荒くれ者も簡単にねじ伏せられるくらい、強くなった。
それなのに、あの頃みたいに途方に暮れている。
血にまみれた大きな手のひらを見下ろして。

この手は何のためにあるのだろう。
生きるため。
自由を勝ち取るため。
楽しむため。
…殺すため。
そう、それだけだったはずだ。
それで満足していた。
毎日毎日獲物を追いかけて、切り裂いた。
殴ったり蹴ったりするだけだと、あの女を思い出すから。
だから俺はあの女を刺し殺して思う存分切り裂いて、自由を手に入れたと同時に、この爪を手に入れた。
切り裂く肉の感触と、熱いくらいの返り血を浴びて。
命乞いをする声も、恐怖だけに彩られた目も全部心地良かった。
完全に壊れたそれを踏みにじることも。
あの女が最後に俺に教えてくれたものだ。
全部全部。
それだけで全部だ。

なのに、目の前に眠る子猫に触れようとした。
伸ばしかけた手を、止める。
触れ方が、…わからない。
ちっちゃくて弱い子猫。
ちょっと掴んで力を入れたら、簡単に壊れてしまそうだ。
違う。壊したいわけじゃない。
これは獲物じゃない。
…触れたいだけ。
なのに、触れ方がわからない。
壊れる。壊したくない。
だけど触れたい。
…何故だ?

伸ばしかけた手のひらを引っ込めて、まじまじと見下ろして途方に暮れる。
感覚をもてあます。
手のひらに汗が滲み、小さく震えていた。
あの頃よりずっと強くなったはずなのに、すごく弱く見えた。

恐怖している。怯えている。躊躇している。
この俺が?
子猫に触れることを?
俺が子猫に触れたことで、子猫が壊れることを?
俺が?
子猫が壊れることで、俺が壊れることを?
…待て。何故子猫が壊れたくらいで俺が壊れる?
今まで何でも壊してきた。殺してきた。
あの女も、数え切れない獲物たちも、全部だ。
そうやって勝ち取ってきた。
生きること。
自由。
楽しむこと。
それだけのために。
血にまみれたこの手で。自分の力で。
それでも子猫に触れたいだなんて。
ただ触れるなんて、したことないのに。
したいと思ったことなんてないのに。
触れてどうする。触れ方がわかったところで触れてどうする。
俺は、どうしたいんだ?

ただ触れたいだけだなんて、…どうかしてる。

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飢えた獣2

差し出した手のひらは、自分の理想よりずっと小さく貧弱だった。

『早く早く大きくなりたい』『早く。誰より早く』

呪文のように心の中で繰り返す。
何故なら、口癖のように女が俺に言っていたからだ。

『ハヤク』と。

子供だった自分に向けて女は焦れたようにいつも言っていた。
だけどその意味がわからなくて、どうにか理解しようと努めては途方に暮れた。
とにかく、自分が非力な子供のままでいるから、その意味が理解できないのだと思ったから。
だから、早く大きくなりたいと思った。
それだけだった。
…少なくとも、最初は。

しかし女はそんなことも知らず、『ハヤク』そう、急かした。
きっととても浅はかな女だったのだろうと今なら思う。
感情の安定、不安定をカケラもコントロールできない女だった。

「手を出してごらん」

女は白と青紫の煙を纏いながら、口端を歪めて笑んだ。
こういう顔をする時は、決まって気まぐれ。
機嫌がとてもいいか、とても悪いかのどちらかだ。
そのどちらかがわからなくて、ひっそりと怯えた。
こういう時に怯えを全面に出してはいけない。女の加虐心に火をつけかねない。
一旦火がついた女は、嬉々として無抵抗のこちらを殴り、蹴る。
自分を含め、他者に暴力をふるっている時の女は、どんな時よりもずっと奇麗で生き生きしている、と思う。
だが、一度興奮した女はなかなか手を止めてくれず、加減も忘れ、こちらが瀕死の状態に陥る危険もある。
そうなる前に、反撃してしまいそうになる。
一番何に怯えるかといえば、女からの暴力そのものではなく、女に対して無抵抗でいられなくなりそうな自分だ。
今、反撃したところでどうなるわけでもない。
ただただ完膚なきまでに。死ぬまで打ちのめされるだけだろう。
そして、死んでもそれに気づかれず、打ちのめされ続けるだけ。
この手はまだ、小さくて貧弱なのだ。

…まだ。まだ駄目だ。

心の中で呟く。
死ぬことを恐れているのではない。
ただ、女に無駄に嬲り殺されるのだけは御免だった。

「ハヤク」

女は急かす。
怯えを噛み殺し、黙って手を出した。
その手のひらに、女は半透明の黄色い硝子玉のようなものを置いた。

「…?」
「食べてみなよ」

何か分からず女を見ると、女は顎で促す。
これがそもそも食べ物なのかどうかわからない。
しかしここで食べなければどうなるか。
機嫌はいいようだから、それを無駄にしてはいけない。
思い切って口に含むと、思いの他甘く、ちくちく上顎に沁みた。

「レモン味の、飴よ。食べたことないでしょう?ぼうや」

女はこちらを子ども扱いしたい気分だったらしい。
「ぼうや」と呼ばれて虫唾が走った。

舌の上、溶けては沁みるそれ。
甘酸っぱい匂いが、食道を介して鼻腔にも滲む。
どこまでも甘いだけ。
どこまでも酸っぱいだけの、はずなのに。
喉の奥がぎゅう、と絞まる。
目の奥が、ちかちかと点滅している。

…苦い。

「おいしい?」

女は精一杯の優しい微笑みを浮かべ、こちらを見た。
反吐が出るほど「母親」の顔を繕った女は、ちっとも奇麗じゃなかった。

『…早く早く大きくなりたい。誰よりずっと』

呪文のように心の中で繰り返す。

『そしてこの女を殺して、自由になるんだ』

二度とレモン味の飴なんか食うもんか。と強く思った。

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飢えた獣

断末魔の叫びは赤く。
しかしその赤い声すら喰らい尽くそうとするかのように、獣は大きく口を開いた。
覗く口内はすでに赤く染まり、千切られた肉片すら見える。
声も、血肉も、全て。
己に取り込み、己の血肉とするかのように。
開いた口から零れる音は、獣の咆哮。
げらげらと、甲高く耳障りな狂気に染まった笑い声だった。


 ---


『なんでもそう。作るのや保つのはすごく難しいのに。壊すのは、こんなにも、とっても簡単』

壊れたものを見下すようにして、あの女はからからと笑ったことを思い出した。
ろくでもない女だったけれど、唯一でもあった。
あの頃の、俺にとっては。

『なんて面倒なの。もう嫌』

女はそれだけを言って、放り出した。
投げられたそれを、そのまま捨て置くつもりなのだろう。
ちらとそれに視線をやるだけで咎められた。

『そんなもの見てどうするの。さぁ、行くわよ。もうここには用はないの。それにもね』

女は忌々しいものを吐き捨てるように言い、顔をしかめた。
それに無言で従うしかなかった。
ただ、女がそれを踏みにじらなくてよかった。とだけ思った。


 ---


獣の咆哮は、記憶の奥底に沈む女の、冷笑を思い出させる。
かと言って、笑うことをやめるつもりはない。
ちっとも可笑しいことなどないのだけれど。
笑みは次から次へと湧き出し、まるで泣き叫ぶ子供のように止める術を知らないのだから。

獣はそうして、しばらく笑い続けた。
酸欠に喘ぐことはなかったが、引き攣るような呼吸が肺に苦い水が溜まっていく様に似ていると、なんとなく思う。

喉の奥に酷い渇きを覚え、獣は壊れかけたそれを見下す。
何の役にも立たない。
もうすぐ完全に壊れる。
ただ、捨て置くことはできないだろう。
それが、自分とあの女の違い。
僅かな差だがしかし、決定的な違いでもある。

先刻喰い千切った喉元から、どくどくと赤黒い液体が流れ、それは最期の痙攣を始めていた。
喉の渇きは癒えず、限界を知らせる。
もう一度拾い上げ、溢れるそれを口に含み、飲み下した。
後から後から、溢れる。
…あたたかい。未だ。
甘い。今ならまだ。
喉が、渇く。

飲み下す。
飲み下す。

「……!」

急激に胃が収縮し、せっかく飲んだそれを全て排除しようと足掻く。
拾い上げたそれを投げ出し、嘔吐した。
全て。
胃液も、内容物ももろとも。

…ほらね。壊すのは、こんなにも、簡単。

耳の奥、女が笑った。

喉が、渇く。
もう全て排除したはずの胃はそれでも尚、収縮を繰り返す。
獣は咆哮する。
可笑しいことなど何一つないと言うのに。

獣の喉が潤されることはない。
獣の飢えが満たされることも、ない。

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夢を見る夢

痛みを穿き違えた。
あの日から祈る言葉はいつも同じ。

穿き違えて穿き違えて。
このまま。

そうすることで、僕が楽になるわけじゃないことくらい知っているけれど。

穿き違えて穿き違えて。
そのまま。

そうすることで、君がますます苦しむことくらい知っているけれど。

僕らは見事に痛みを穿き違えた。
あの日から祈る言葉はいつも同時。

穿き違えて穿き違えて。
どうか。

痛みを、穿き違えたままで。

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どちらが重罪ですか

知っていて犯した罪と知らずに犯した罪は。

どちらの方が重罪なのでしょう。

彼を食む罪は。

知っていて食んだことと、知らず食んだこと。

どちらの方が重罪だったのでしょう。

ボツか採用かは未確定3

飢えろ。
逃げろ。
耐え切れるものなら、耐えてみせろ。
限界まで。

そう、深淵の淵はすぐそばでお前を飲み込もうと待ち構えている。
溶け込む漆黒の触手を蠢かせて。
お前を手招いている。
お前を掴んで引き摺り下ろしたがっている。
舌なめずりの音が聞こえるだろう?

意外と容易いものだ。
さぁ。


…く、

思わず、口端から嘲笑が零れ落ちた。
それは滴となって己の体躯の真下に組み敷いた弱いだけの「もの」の上に降り注ぐ。
息も絶え絶え。
身体全て。心全て擦り切れても。
それでもこちらを睨み上げる奇麗な瞳の色だけは、変わらない。

そう、これだ。と思う。
これこそが、俺が、この襤褸雑巾を持ち帰った理由だと。
死ねないぎりぎりのところまで、洗って繕って修理するという面倒なだけの手間をかけた理由だと。
相棒すら「物好きだナァ」なんて笑うほどに。

足を折った。腕も折った。
そのまま放置すればきっと、自然治癒を行おうと足掻く肉体は、歪なかたちで骨が結合して、二度と元の形には戻れなくなるのだろうと思った。
それはそれで、面白いのだけれど。
奴みたいな人体改造は趣味ではない。
あくまで獲物は獲物然としていてほしいものだ。
いつか逃げ出す、なんてしてくれたら、それはそれで大歓迎。
また鬼ごっこができるわけだ。
俺から逃げ切るなんて不可能。
俺はもう、お前の血の味も、血の匂いも覚えた。
地の果てまで追いかけて、また捕まえてやる。
あぁ、楽しそう。すっげぇ、楽しそう。
にや、口端がまた、無意識に歪む。

襤褸雑巾の折れて変な方向へ向いた腕を掴んで、無理やり元々の形へもう一度折る勢いで捻り上げる。
ついでに足も。同じように。
骨が肉を抉る鈍い音。
ちょっと突き破っちゃったかもな。と思う。
確認のために腕を持ち上げても、すでに血まみれで怪我だらけだから、よく分からなかった。
ぽい、と掴み上げた腕を放る。
その一連の俺の行動で、襤褸雑巾は壊れたみたいに面白いほどに叫んだ。
限界まで見開いて充血した両の目から、ぼろぼろと涙が落ちる。

「なぁに泣いてんだ。直してやってんじゃねぇかよ。俺ってばちょー優しいと思わねぇ?」

くく、

笑みが零れる。
もう今までの責め苦で悲鳴をあげ続けすぎて、喉もぼろぼろのくせに。
声なんかあんまし出なくなってたのに。
多少の痛めつけでは叫ぶ気力もなくなったか、と思ったのに。
じゃあ仕方ないからちょっと直してやるか、と思って修理を始めれば、簡単に叫びやがる。
ぶるぶると震える襤褸雑巾。
無理に叫んで喉を酷使したせいか、少し吐血した。
それをにやにや見下ろす俺を、睨む瞳はもう、ない。
どこも見えてないみたいな、壊れた色。
ぱくぱく口を動かすから、なんだよ、と問いかけてやれば、もう耳タコな台詞が掠れて掠れて、だけど辛うじて聞き取れる。

…も、ぅ、…ころ、してくっ、れ

だってさ。…馬っ鹿みたい。

無様なほどに見事なほどにぼろぼろ。
だけど一向に屈しない瞳がいい。
哀願して懇願して。
だけど瞳だけは俺のものにならないのがいい。

あぁそうだ。
飽きたらこの目、抉って捨ててやろう。
まずはそうしよう。
飽きるまでは絶対に、この目だけは潰さないでおこう。
他のどこを、壊してでも。
これが、こいつの醍醐味だ。

「子猫ちゃん、お目めが真っ赤だなぁ。ウサギちゃんみたい。あぁ、これからはウサギちゃんって呼んでやろっかぁ?」

笑う俺を見上げた瞳だけは、やっぱりいい色してやがる。
だけどきっと、このまま放置したら完全に壊れてしまうんだろう。
限界ぎりぎりまで、洗って繕って、修理してやろう、とまた思う。

「イイコにしてろよぉ?お薬取ってきてやるからなぁ」

がしがし頭を撫でて。
ついでに唇を噛んで、ねっとりと舐め上げてやった。

甘い血の匂いと味に、満足する。


飢えろ。
逃げろ。
生きろ。

限界まで。

絶対にお前は深淵に飲み込まれる。
絶対に。



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ボツか採用かは未確定2

乱暴にドアを開ける。
今までだってそっとノブを回して静かにドアを開けたことなんてなかったけれど、それでもいつもよりずっと乱暴を心がけて、わざと音を立てて開ける。

そんなこと繰り返したら、ドアの寿命が縮まるんだろうな、と人事のように思う。
そういえば俺や、俺の相方のドアは他の部屋のドアよりも壊れる頻度が高い、と奴は顔をしかめていたな、とどうでもいいことを思い出しながら。

派手に音を立てて開いたドアの向こう。
今まで誰もいなかったそこに、存在するようになった「もの」。
俺はそれを気まぐれに思い出したりすっかり忘れたり。
「襤褸雑巾」と心の中で呼びながら、口先では「子猫ちゃん」と話しかけるようになった。

返事なんて当然ない。
元よりそんなもの欲していない。

優しくする気など毛頭ない。
そんなことしてなにになる。
自分自身も楽しくない上に、無理をしなければならないからストレスでしかない。
そんなことしてどうなるっていうんだ。
所詮、いつか完全に壊れて、そしたら他のゴミ同様、捨ててしまう玩具なのに。

「イイコにしてたぁ?子猫ちゃん」

にや、と口端を歪めて見下してやる。
散らかり放題の床の上、まるで本物の子猫が必死で全身総毛立たせて威嚇するみたいになった「もの」を。

ちっとも怖くない。
弱者の威嚇ほど滑稽なものはない。
歯向かうにしてもせいぜいできて、拒否の言葉と暴言を吐くだけ。
その暇さえ与えないくらい悲鳴をあげさせれば、爪で引っ掻くだけ。
その爪さえ引き剥いでやれば、噛み付くだけ。
噛み付く気力もなくなるくらい痛めつけてやれば、あとは簡単。
逃げ出すこともできないよう、足を折った。
暴れるのもまたいいけれど、あまりにしつこかったから苛ついて、腕も折った。
放置しておいたらゴミになるだけだった身体を、ぎりぎりのところまで洗って繕って修理してやった。
ころしてくれ、
なんて懇願されても聞く耳なんかもたない。
むしろ懇願でも哀願でもなんでも、叶えてやるわけがない。
俺からすれば、ただの「嬌声」だ。

アァ、心地いい。
頭ん中、お前の悲鳴でいっぱいにしてくれよ。

襤褸雑巾。

奇麗に洗ってやったのに、また血と埃で汚れていやがる。
床なんかにはいつくばってるからだ。
また風呂に入れてやろうか。
ついでに遊んでやろうか。
本物の猫みたいに、特に風呂で遊ぶのを嫌がる襤褸雑巾。

嫌がって嫌がって、泣き叫んで。
最後にはどうせまた、気絶すんだろ。
そしたらまた、完全に壊れてしまうぎりぎりまで、洗って繕って修理してやる。

「子猫ちゃん、遊ぼっかー」

全身毛を逆立てて威嚇するみたいに、静かに殺気立つ襤褸雑巾。
そんな静寂、いらないよ。

反抗してよ。抗って。叫べよ。苦痛に錯乱して喚け。
もっと鳴け。泣け。啼け。

「なぁにして遊ぶぅ?」

嘲笑する俺を、睨む襤褸雑巾。

アァ、心地いい。

まだまだ、開放なんかしてやんねぇ。


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ボツか採用かは未確定。

襤褸雑巾。

それだけだった。
普段なら不必要。すでに自分を楽しませる玩具にもなりえない。
もはや価値のない、いつもなら適当に捨て置くはずの、それ。
なのに何故だろう、それがここにあるのは。
それが、限られた人間しか入室させないこの私室に転がっているのは。
狭くはないが、物が散乱して乱れた私室。
これ以上余計な物は増やさないようにしなければ、と思っていたのに。
元々少なかった足の踏み場が減ってしまった。
どうしてだろう。
分かっていたのに。
面倒くさいことは嫌いなのに。
余計な荷物など、不必要なのに。
もう、それに価値などきっとないのに。

まじまじとそれを眺める。
もはや襤褸雑巾としか呼べない、自分にとってもはや価値なきもの。

しかしそれらは愚問だった。
自らの手でそれを持ち帰ったのだから。
ただ、その理由が自分でもわからない。

なんとなく。

そんな簡単な言葉しか浮かばなくて、それが妙にもどかしくて。
思わず舌打ちをした。

「…ぼろぞーきん」

口にしてみる。
床に乱暴に落ちたそれを揶揄して。
しかしそれはこちらに対して歯向かうことも、睨むことも、
それどころか何の反応も寄越してこない。
閉じられた瞼は青白く、投げ出された四肢も髪も血と泥で汚れてそのまま。
纏っていた衣服など、ほぼその役割を果たしていない。

それらは全て、自分でわざとそうしたのだけれど。

…もしかしたら、もう駄目かもしれない。

普段なら、そんなことも思いもしないのに。
どうでもいいのに。
そう、最初は思わなかった。どうでもよかった。
最初は、いつも通りだったのだ。
いつも通り、気まぐれに鬼ごっこをはじめた。
逃げ惑う獲物を捕まえて、遊んだ。
気が済むまで。
普段は、そこで終わり。
適当に放置して、その玩具が完全に駄目になったら捨てに行く。
ゴミは、ゴミ箱へ。せめて街はこれ以上汚すな。
そう、奴が口を酸っぱくして言うからだ。
全て従うつもりなどないけれど、この程度ならまぁいいか、と適当に守っていただけ。
別に。譲る譲れないとかいう、切羽詰ったことでもないし。
問題はいつも、自分が面白いか否かだけだし。
それに、ゴミをゴミ箱へ持っていく自分たちを見て、ますます獲物たちが怯えあがるのが気持ちよかったし。
次の獲物との鬼ごっこもまた、余計に楽しむことができる。
ちょっとしたスパイスみたいなものだ。

…そう、恐怖。
その一色だけにまみれた視線。
逃れようと足掻く粗い呼吸音。
もつれる脆弱な手足。
視線をそらす脆い精神。
哀願する悲鳴。
絶対的な恐怖だけがその身全てを包んだ時、自分たちにしかわからない、しかし濃厚にふわりと香る、甘い匂い。
それが全て。
それら全てが揃った時、始めて自分たちの至上の玩具となる資格をもつ。

…そうじゃなかった。
これだけは。
逃げた。
最初は同じように。
だからいつもと同じように楽しんだ。追いかけた。
だけど、捕まえて遊んでいる時、今までのどの玩具とも違うことに気づいた。
どう違うのか、いまいちわからなかった。
ただ、遊び終えて、普段なら適当に捨て置くはずのそれを、何故か、放置できなかった。

ゴミはいつも、その襟首を掴んで、乱暴に引きずってゴミ箱へと運ぶ。
だけどこれだけは、肩に担いだ。
これ以上、傷を増やさぬように。
相方と合流する前に、私室に運んだ。

何故相方に見つからぬようこっそり私室に運んだのか。
そもそも、何故持ち帰る?
はたして傷を増やさぬよう肩に担ぐ意味などあったのか。
すでに己の手で襤褸雑巾としか呼べぬほどに痛めつけたというのに。

ぐるぐると己の思考をループする疑問。

埒が開かない。
元々、考えることは苦手だ。

ふと、床に転がった襤褸雑巾を見やった。

ぴくりとも動かず、放り出したままの姿でそこにある。

「…ぼろぞーきんのくせによぉ」

洗えばましになるだろうか。
繕ってやればいいのだろうか。
修理すれば治るのだろうか。

少しは見れる姿に戻るのだろうか。
また、遊べる玩具に戻るのだろうか。
自分を楽しませてくれるのだろうか。

しかし、その未来への期待よりも、そのための手間の方が明らかに面倒だ。
こんなことなど当然初めてだから、どう対処していいのか、どうすればいいのかなどわかりはしない。
普段ならそう、街へ出れば幾らでも他の玩具があるのだから。
こんな面倒なことなどしなくとも、毎日存分に楽しめる。

なのに、…何故、これなのか。

床に落ちたまま、動かないそれ。

「…なんで持って帰っちまったんだろぉなぁ…ナァ、子猫ちゃん?」

当て所なく呟く己の問いに答える者など、元よりこの私室には存在しない。

あるのはただ、床に転がった襤褸雑巾だけ。



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